[要旨]
会社の経営環境には多くの制約があり、なかなか思うように事業を進められないものの、自社の強みや機会をつなぎ合わせて筋立てて行くことで、優位に競争できるストーリーとすることができます。
[本文]
今回も、一橋大学の楠木建教授のご著書、「ストーリーとしての競争戦略」から、私が気になったところをご紹介したいと思います。今回は、本のタイトルにもなっている、ストーリーについてです。楠木教授によれば、「ストーリーとは、2つ以上の構成要素のつながり」です。楠木教授のいう構成要素とは、私は、会社の強みや機会を指していると解釈しています。そして、楠木教授は、ストーリーの強さ、太さ、長さが大切だと述べておられます。その一方で、楠木教授は、現在、優れた戦略ストーリーを持っている会社も、最初から明確なストーリーがあったわけではないとも述べておられます。
これについては、多くの経営者の方が同意されるのではないでしょうか?世の中は、自社の思う通りになるほど甘くはないというのも現実でしょう。このような状況から、経営者の方の中には、前もっていろいろ考えてもむだだと考える方も多いのでしょう。しかし、それでも、楠木教授は、ストーリーは大切だと述べておられます。優れた戦略ストーリーを築いた会社は、初めのころは、「この戦略を選択するしかなかった」という戦略をとったとしても、それが「禍を転じて福となす」となるようにストーリーを作っていったそうです。
例えば、1967年に、米国テキサス州に設立されたサウスウェスト航空は、州内の運航便の事業申請をテキサス州に提出し、認可を受けるものの、他の航空会社が認可の取消を求めて裁判を起こした結果、1976年になって、初めて、事業を「離陸」させることができました。しかし、最初のつまづきで、4機所有していた飛行機(ボーイング737)のうち、1機を売却しなければならないという不運な状況にあったそうです。そこで、同社は、大手航空会社が行っている、ハブ・アンド・スポーク(拠点大都市経由)方式をとらず、出発地と目的地を単純につなぐ、ポイント・トゥ・ポイント路線に特化することにしたそうです。
これにより、空港使用料がハブ空港よりも安い二次空港を利用する、ターン時間(空港に到着した飛行機が、再び飛び立つまでの時間)を15分間に短縮し、事業効率を高めるといった戦略などをとることによって、高収益会社になって行きました。このサウスウエスト航空の例のほか、楠木教授は、マブチモーター、マニー(手術用の縫合針メーカー)ベネッセコーポレーションなどのストーリーの例を挙げていますので、ご参照いただければと思います。
私も、これまでご支援してきた経営者の多くが、「やってみないと分からないことが多いのだから、前もっていろいろ考えてもむだ」と考えていると感じています。しかし、私は、「考えることがむだ」なのではなく、「所与の条件の中でストーリーを作ることが難しい」から、それを避けているのではないかと思います。確かに、ストーリーを考えても、必ず成功するとは限りませんが、より有利に競争を進めるためには、よいストーリーを作ることが大きな鍵になると考えています。
ちなみに、私がバランススコアカードの実践をお薦めしているのは、そのような理由によるものです。バランススコアカードの事例でも、よく、サウスウエスト航空の戦略マップが事例として紹介されますが、ストーリーを作ることとは、戦略マップを描くことに等しいといます。そして、最近は、「ビジネスモデル」という言葉をよく耳にするようになりましたが、「ビジネスモデル」とは、「筋の良いストーリー」とも言えると思います。そこで、いま、業績を改善したいと考えている経営者の方は、楠木教授のご著書のメインテーマである「ストーリー」を意識していただきたいと思います。