[要旨]
実効性の高い競争戦略は、打ち手の因果関係や相互作用が明確にされている、すなわち、しっかりとしたストーリーが作られているものです。しかし、戦略策定のとき、ストーリー以外の要素である、アクションリストや法則などばかり検討してしまう会社が少なくないので、注意が必要です。
[本文]
今回も、一橋大学の楠木建教授のご著書、「ストーリーとしての競争戦略」から、私が気になったところをご紹介したいと思います。今回は、書籍のタイトルでもある、「ストーリーとしての競争戦略」について、私の感想を述べます。楠木教授は、「ストーリーとしての競争戦略」を重要視しているからこそ、書籍のタイトルにしたと思いますが、私は、ストーリーとしての競争戦略を楠木教授が重要視する理由に注目しました。
楠木教授によれば、競争戦略とは、競合他社との違いをつくるための筋書きであり、「誰に」、「何を」、「どうやって」提供するのかということについての、さまざまな打ち手で構成されていると言います。そして、それらの打ち手が、お互いに関連性がない状態で実施されるのではなく、相互作用が得られるようにすることで、長期利益が実現すると考えておられます。この、さまざまな打ち手を結びつける論理がストーリーであり、それらの因果関係や相互作用が大切だと、楠木教授は考えているようです。
そこで、その因果関係や相互作用を重視する観点から、「誰に」、「何を」、「どうやって」よりも、「なぜ」という観点がより大切になるということです。そして、楠木教授は、「ストーリーとは何ではないのか(ストーリーと混同されやすいもの)」について、詳しく説明しています。具体的には、「アクションリスト」、「法則」、「テンプレート」、「ベストプラクティス」、「シミュレーション(シナリオ、ロードマップ)」、「(ゲーム理論としての)ゲーム」は、「ストーリー」とは異なるということを説明しています。
これは、別の言い方をすれば、前述の6つは、戦略を検討するときに、誤って中心的に検討してしまいやすいものだということだと思います。すなわち、アクションリストや法則ばかり検討していては、実効性の高い戦略は策定できないということでしょう。私も、特に、中小企業では、楠木教授の指摘の通り、「ストーリー」を検討することは少ないと感じています。その要因としては、経営資源が比較的少ない中小企業では、実践できる「打ち手」が限定的である、すなわち、選択肢が少ないので、ストーリーを検討してもあまり意味がないという実情があると思います。
とはいえ、業績を伸ばしている会社は「ストーリー」が明確です。例えば、伊那食品工業は、多くの会社があまり選択しない、「限りなくゆっくりでも右肩上がりの成長を目指す」という、「年輪経営」の考え方を実践し続けてきた結果、現在は優良企業になっています。私は、多くの中小企業では、1年後や3年後のことで頭や手がいっぱいという状況も理解できなくもないのですが、21世紀は、楠木教授のいう「ストーリー」もきちんと検討できる会社にならなければ、単に、成行で事業を続けるだけになり、現在の水準からいつまで経っても抜け出すことができなくなる、すなわち、競争力があまり高くない会社のままになってしまうと考えています。