鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

東名高速の上が展示場

[要旨]

中古車買取専門店のガリバーインターナショナルは、従来の業界の慣行に従わず、在庫期間を短縮し、売残りのリスクをなくすことに徹し、業績を伸ばしてきました。これからの中小企業は、同社のように、従来の慣行にとらわれず、長期的利益を得るための筋書きを新たに考え、それを忠実に実行することが大切です。


[本文]

今回も、一橋大学楠木建教授のご著書、「ストーリーとしての競争戦略」から、私が気になったところをご紹介したいと思います。今回は、「なぜ」についてです。楠木教授は、強いストーリーを作るための要素として、「なぜ」を重要視しておられます。そして、その「なぜ」については、マブチモーターサウスウエスト航空スターバックスコーヒーも素晴らしいと評価しておられますが、ガリバーインターナショナルも高く評価しています。

ガリバーの事業の仕組みは、少し複雑なのですが、簡単に言えば、消費者から中古車を買い取り、オークションで販売することから、在庫期間を短くし、さらに、売れ残りのリスクを回避しているところです。当時の社長の羽鳥さんは、「ガリバーは、消費者に販売する場合でも、現車の展示場を持っていないため、東名高速でオークション会場へ(自動車を)陸送している途中でも、ネットオークションで顧客から買いたいという連絡が入れば、その時点でオークションへ出すのを取りやめて、その顧客に販売する、すなわち、東名高速の上が展示場ども言える」とお話しているそうです。

一方、従来の中古車業界は、相対で顧客に中古車を販売することで、ある程度の利幅を得ることができたのですが、すべての自動車を販売しきれずに、売れ残りの自動車の値崩れのリスクを抱えていました。ガリバーは、販売による利幅よりも、在庫リスクを回避する方法で、業績を急速に伸ばしてきました。とはいえ、ガリバーがこのような事業を始めたときは、羽鳥さんも逡巡があったようです。というのは、いますぐ展示場に並べれば高値がつくような自動車も、買取専門店を名乗っている以上、後ろ髪を引かれる思いでオークション会場に運んでいたそうです。でも、同社の事業の「なぜ」を貫くため、羽鳥さんは新たな事業を忠実に実践していたそうです。

ちなみに、マブチモーターも、かつて、大量生産を行うために、製品の標準化を実施した際、新たな受注を断ることがあったそうです。サウスウエスト航空も、低コストを実現するために、地方路線だけを選んで運行しています。スターバックスコーヒーは、サードプレイスを提供するために、あえて時間をかけてコーヒーを提供し、短時間しか利用しない顧客を排除しています。この、「なぜ」は、長期的利益を得るための筋書きのことですが、まず、目先の利益に左右されず、長期的利益を得るための筋書きに忠実であることが大切ということです。

そして、これも頭では分かっていて、なかなか実践できないことなのですが、この長期的利益を得るための筋書きは、事業の現場にいる経営者の方は、なかなか作ることができないということです。ブックオフもそうでしたが、業界の内側にいると、なかなか、業界の習わしを変えることは難しいようです。事業に携わる方は、どうしても、「この業界ではこのやり方が正しい」と考えてしまいがちです。しかし、経営環境の変化が激しい時代だからこそ、筋書きが大切だということは、間違いありません。トヨタでさえ、製造業からサービス業へ転換すると宣言する時代だからこそ、経営者の方は、その視点を、事業そのものから、どういう筋書きが適切かという、自社のあり方に移すことが大切だと思います。

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