[要旨]
イエローハット創業者の鍵山秀三郎さんは、掃除を行うことで同社を成長させてきましたが、掃除は組織を磨くための活動であり、掃除だけをしていても事業は発展しません。事業を発展させるためには、真摯に販売活動に取り組むことは避けることはできません。
[本文]
前回、社会的によいことをするよりも、直接的に、自社の商品の販売につながる活動を優先すべきと述べました。これに対し、イエローハット創業者の鍵山秀三郎さんは、会社の黎明期から、掃除をしていたので、社会的によいことをすることも、事業を拡大することにつながるのではないかと考える方もいると思います。確かに、鍵山さんは次のようなことを述べておられます。
「会社に余裕があるから掃除ばかりしていられるんだと言われることがあります。確かに、今でこそ、それほど資金繰に追われるようなことはなくなりましたが、かつての当社の資金繰はきつく、銀行に日参する状態でした。決して会社に余裕ができてから掃除を始めたのではなく、苦しいときから始めたからこそ、現在の当社があると思っています」
一方で、次のようにも述べておられます。「スポーツで、もっとも大切なのは基礎練習だと思います。ところが、この基礎練習というのは、実に辛くて退屈なものです。しかし、力を蓄えるためには、この退屈で苦しい基礎練習から逃げずに、耐えて取り組む以外に方法がありません。当社の場合、力を蓄える具体的方法としてもっとも効果的だったのが『徹底した掃除』でした」すなわち、鍵山さんは、掃除を販売活動ではなく、組織育成として取り組んでいたということです。
さらに、当然のことながら、鍵山さんは、掃除だけでなく、販売活動にも注力していました。「どの会社も扱わなかった商品を、私一人が取り上げ、四十年過ぎたいまでも売れ続けている商品があります。変化の激しい中で、注目すべき事実ではないでしょうか。大切なことは『売れない』と努力もしないで諦めるのではなく、その商品の持っている命を引き出すことだと思います」
そして、次のような戒めも述べておられます。「スポーツ選手への戒めの言葉に、走っている姿に、そのまま選手の心が顕れるという意味の、『走姿顕心』というものがあります。これは、経営者が掃除をするときの姿にもあてはまり、『掃除をすると儲かる』というような気持ちで取り組みますと、掃除をしている姿に、そのまま打算が顕れます」
すなわち、鍵山さんは、会社の黎明期から、組織を磨くために掃除を行っていましたが、それと同時に、販売活動にも注力してきており、どんなに能力の高い経営者であっても、それを欠かすことはできないということでしょう。そして、販売活動を避けるために掃除をしていれば、それは顧客や社会に見透かされてしまい、かえって自社の評価を下げてしまいます。