鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

社長の所有する土地に建てた会社の社屋

[要旨]

社長個人の所有する土地の上に、会社の所有する建物が建っている場合、経営者保証ガイドラインの示す、「法人と経営者との関係の明確な区分・分離」に該当しないと考えられます。しかし、この規定は、経営者保証を解除してもらおうとするときの判断要因としては小さいので、極端な公私混同をしない限り、あまり、問題にされることは少ないでしょう。


[本文]

知人の経営者のAさんから、経営者保証ガイドラインについて質問を受けました。その質問とは、Aさんが所有する土地に、会社が所有する社屋が建っている場合、経営者保証ガイドラインの指す、「法人と経営者との関係の明確な区分・分離」に触れるのかというものです。経営者保証ガイドラインとは、会社が銀行から融資を受けるときに、社長の個人保証を結ぶ時の目安とする基準を示しているものです。

そして、ガイドラインの中には、「銀行から融資を受ける会社は、会社の業務、経理、資産所有等に関し、会社と経営者の関係を明確に区分・分離し、会社と経営者の間の資金のやりとりを、社会通念上適切な範囲を超えないものとする体制を整備するなど、適切な運用を図ることを通じて、会社と経営者個人の一体性の解消に努める」と書かれています。そこで、Aさんは、自分の所有する土地に会社の社屋を建てていた場合、この規定に触れることになるのかという疑問を持ったようです。

ところで、会社の社屋とAさんの土地を、会社の融資の担保(一般的に、建物と敷地は、セットで担保契約を結びます)としている場合、Aさんは連帯保証人になることが通例なので、以下、いずれも担保になっていないという前提で述べます。これについては、明確な基準はないのですが、私は、Aさんの例は、「法人と経営者との関係の明確な区分・分離」に該当しないと考えます。

不動産登記上は、社屋は会社が所有し、敷地はAさんが所有しているとはいえ、そもそも、Aさんの所有する土地の上に、会社が社屋を建てることができたのは、Aさんが会社の経営者であるという、密接な関係が前提だからです。したがって、これを解消するには、Aさんが会社に対して適切な価額で敷地を売却したり、一般的な相場の地代を、会社がAさんに支払ったりするという対応が考えられます。

しかし、私は、このような問題には、あまり、形式にこだわる必要は少ないと考えています。なぜなら、銀行が、経営者保証を不要と考える最大の要因は、融資相手の会社の利益が出ているかどうかだからです。仮に、「法人と経営者との関係の明確な区分・分離」に、少しの疑義があったとしても、会社の業況がよければ、経営者保証は不要と銀行は考えるでしょう。

むしろ、「法人と経営者との関係の明確な区分・分離」は、100%なくすことは難しく、極端な公私混同をしていない限り、あまり問題にされることはないでしょう。したがって、経営者保証を解除してもらうためには、業績を向上させること、情報開示を積極的に行うことに軸足を置くことが賢明であると、私は考えます。なお、改めて述べますが、この記事の見解は私個人の見解であり、個々の銀行と異なることもありますので、ご注意ください。

f:id:rokkakuakio:20210412194056j:plain