[要旨]
経営者保証ガイドラインには、経営者が保証債務整理を銀行に求めた場合、銀行は、それに誠実に対応することが望まれると規定しています。しかし、それによって、必ずしも、経営者の金銭的負担が軽減されるわけではなく、経営者が自己破産を免れたとしても、経営者側も誠実に保証債務の履行に応じることが求められています。
[本文]
日経ビジネスオンラインに、ファブレスメーカーX社の倒産に関する記事が載っていました。記事によれば、倒産したX社の経営者のX氏は、X社の銀行からの融資の連帯保証人になっていたので、X社の倒産にともなって自己破産したが、銀行が経営者保証ガイドラインに沿った対応をしていれば、X氏は、必ずしも自己破産しなくてもすんだのではないかという疑問が残るということです。これについては、私もおおむね同意するものの、記事の筆者は、少し誤解をしているとも感じました。まず、経営者保証ガイドラインを解説しているパンフレットには、経営者が保証債務の整理を銀行に求めたときは、銀行は次のような対応を検討することが望まれると書かれています。
(1)経営者の手元に残す資産(残存資産)の範囲:一定の経済合理性が認められる場合には、破産手続における自由財産に加えて、一定期間の生計費に相当する額や華美でない自宅等を手元に残すことを検討。(2)弁済計画における分割弁済:弁済計画において、経営者が所有する資産(残存資産を除く)を処分・換価する代わりに、対象資産の「公正な価額」に相当する額を分割弁済することにより、自宅に住み続けられるようにするなど、資産を処分しないことを検討。(3)保証債務の免除:経営者が誠実に資力を開示し、その内容の正確性について表明保証を行う等の要件を充足する場合には、残存する保証債務の免除要請について誠実に対応。
これらの内容は、やや難解なものですが、ポイントのひとつは、「一定の経済合理性が認められる場合」というものです。この言葉の意味することは、ひとことで書けば、経営者を自己破産させない方が、銀行から見て金銭的に有利であるということです。では、有利であると判断される場合とは、どういうことかというと、これに関する説明は、文字数の兼ね合いから詳しく書く余地がないので割愛しますが、要は、経営者の財産がある程度ある場合とか、引き続き、経営者が、銀行の融資回収に協力的に行動してくれる見込みがあるということです。
ですから、経営者の資産が乏しかったり、経営者が非協力的であれば、銀行は、経営者保証ガイドライン沿った対応はしないということです。もうひとつは、もし、銀行が経営者保証ガイドラインに沿った対応に応じたとしても、経営者が100%免責されるということではないということです。例えば、経営者は、引き続き自宅を失うことなく、引き続きそこに住み続けることができるようになったとしても、「華美でない自宅等を手元に残す」という条件が付いているので、一般の住宅より大きな住宅であれば、処分を要請される可能性は高いと言えます。また、経営者が資産を所有し続けることを認める条件として、それに相当する額を分割して銀行に支払うことが条件になっています。
このように見ると、経営者保証ガイドラインに沿って、経営者が自己破産を免れるとしても、金銭的な観点からは、経営者は自己破産した場合と、ほぼ、同等の負担を負うことに変わりはないということです。とはいえ、私も、経営者保証ガイドラインが無意味かというと、可能な限り、経営者保証ガイドラインに沿った対応が行われることの方が妥当であると思うし、X氏についても、経営者保証ガイドラインに基づいた対応が行われるべきであったのではないかと思います。ただし、経営者保証ガイドラインは、決ずしも、経営者の金瀬的負担を軽減することが目的になっているわけではないということに注意が必要です。
2022/6/25 No.2019