[要旨]
何らかの施策がうまく行かなかったとき、その施策を決めた人が、自らの失敗を認めたくないという思いから、改善策の実施を躊躇するということが、しばしば、起こります。しかし、人は、前もって完全な決定を行うことはできないことから、過去の決定を修正することに寛容になり、かつ、そのことを称賛するという風土を持つ組織の方が、よい成果を得ることができます。
[本文]
総務省が12月15日に公表した資料によれば、令和2年度第3次補正予算で、マイナポイントに関する事業に、250億円を計上しました。総務省は、マイナンバーカードを普及させるために、マイナンバーカードを申請した人に、インセンティブとして、電子マネーなどのポイントを、最大5,000円分与える、マイナポイント事業を行っていますが、12月上旬で、マイナンバーを申請した人の数は、目標の4,000万人には遠く及ばず、1,000万人ほどに留まっているようです。
そこで、締切を6か月間延長し、ポイントも、当初の目標の4,000マン人から、さらに1,000万人分増やすために、補正予算を組んだようです。この事業は、マイナンバーを普及させるだけでなく、インセンティブを電子マネーなどのポイントで与えることで、キャッシュレス化と、事業の経費の削減の両方を狙っているのだと思います。しかし、結果として、インセンティブが電子マネーなどのポイントであることと、さらに、20,000円分のキャッシュレス決済を行わなければ、5,000円分のポイントがもらえないという複雑さが、インセンティブの効果を弱めていると考えられます。
とはいえ、結果が分かった段階で、この事業の仕組みを批判することは、私は、建設的ではないと思っています。ただ、期限を延長するだけでなく、もっと抜本的な仕組みの変更が行われなければ、目標の5,000万人は、達成できないでしょう。ところで、マイナポイント事業とは異なりますが、セーフティネット保証の認定について、経済産業省の要請に基づき、5月から、市区町村ではなく、融資の申し込みをする金融機関で手続きができるようになりました。
本来は、中小企業が、セーフティネット保証付きの融資を受けるには、まず、市区町村に行って、セーフティネット保証の対象になっていることの認定を受けてから、金融機関に行って、融資の申し込みを行うという手順が必要でした。しかし、3月以降、セーフティネット保証の申し込み者が急増し、特に、大都市の自治体では、認定を受けるために、数か月待ちの状態が発生したことにともない、経済産業省は、市区町村には行かずに、金融機関に行くだけで申請ができるようにしたようです。表面的には認めていませんが、これは、市区町村の認定は、事後的な認定として構わないということを、経済産業省が認めたに等しいと思います。
私も、セーフティネット保証の申請のご支援をしましたが、正直なところ、市区町村の認定は形式的なものであり、現実的には必要性の低いものと考えています。だからこそ、経済産業省は、前述のような対応を決めたのでしょう。私は、いったん、行われた決定は尊重すべきと考えていますが、それと同時に、実際に運用してみて、うまく行かない点があれば、果敢に改善するという姿勢がとても大切だと考えています。その一方で、人は、失敗を認めたくない、体面を保ちたいという保身的な考えも抱くことがあるので、いったん下した決定を、変えようとしないことがあります。
だからといって、私は、総務省のマイナポイント事業に関する対応の鈍さが問題であるということを、述べようとは考えてはいません。人は、前もって完全な意思決定はできないのだから、うまくいかなければ、過去の決定を変更したとしても、周りの人は、それに寛容になり、さらには、変更することを称賛するという風土を作ることが、組織全体としては、よりよい結果につながるために、大切だと考えています。コロナ禍において、中央官庁で、対照的な対応が見られましたが、経済産業省のような対応を、他の省庁においても行って欲しいと、私は考えています。