[要旨]
事業運営において、経営者の方が、事業現場の状況を把握せず、それが方針決定に反映されないために、業績を下げることもあるので、経営者の方は、巨視的な視点と、微視的な視点の両方を、バランスよく持つことが大切です。
[本文]
イエローハットの創業者の鍵山秀三郎さんのメールマガジンに、「鄙事多能(ひじたのう)」について書かれていました。「『鄙事』とは、取るに足らない些細なこと。『多能』とは、器用の意。子供のころ貧しく、どんな仕事でもこなさなければならなかった孔子が遺した言葉です。人生は、難しいことばかりを学ぶことではありません。身辺の雑事といわれるようなことを、きちんと処理できることが何より大事です」これは、ドイルの建築家のミース・ファン・デル・ローエが座右の銘としていたと言われている、「神は細部に宿る」と同じことを示唆していることばだと思います。
ちなみに、私は、「窓口天皇」ということばをきいたことがあります。これは、役所の仕事の実態を指すことばのようで、役所では、キャリアの人が仕事を仕切っているのではなく、実際に、窓口で市民と接している人の方が、多くの実務上の知識を持っているので、その人たちなしには仕事はまわらない、すなわち、実際に仕事を仕切っているのは窓口にいる人なので、その人たちは「天皇」のような存在ということのようです。話を戻すと、事業運営は、全体的な方針を決定する経営者や管理者の役割も大切ですが、一方で、事業の現場で実践されている「鄙事」も大切です。どちらかが大切で、もう一方は大切ではないということはありませんが、どちらかに偏るといことは問題だと思います。
その偏った例は、不正契約が行われた、かんぽ生命の経営体制の例だと思います。令和元年9月30日に、かんぽ生命を含む日本郵政グループの持株会社である、日本郵政の長門社長(当時)は、かんぽ生命の不正契約に関する記者会見で、記者からの同社取締役会の機能強化に関する質問に対して、次のように回答しています。「(日本郵政の)取締役会では、(取締役総数15名の6割を占める、9名の社外取締役から)厳しい意見が連発し、経営陣も納得させられる議論や、叱責されるような議論も多々あり、活発な取締役会が行われていると自負しています。
しかし、今回の問題に関しては、良し悪しは別として、持株会社に全く情報が上がりませんでした。6月24日の報道を発端とし、私どもの調査で不適切な疑いのある案件が2万件を超えることが発覚したにもかかわらず、持株会社の取締役会において、本件について初めて議論されたのは7月末です。(このような状況を踏まえ)情報がしっかり持株会社に上がり、子会社と共有できる体制を構築することで、取締役会を活性化していきたいと思っております」
かんぽ生命の件は、極端な例であるし、また、日本郵政グループが大きな組織であるということを鑑みれば、例外と感じる方も多いと思います。もちろん、私もそう思うのですが、同社のような状態に至らなくても、経営者が「鄙事」を軽視しているために、それが会社の業績を下げてしまう原因になっているという例は、しばしば見られると思います。私は、経営者の方は、視野を特定の部分にだけあてることなく、巨視的な視点と、微視的な視点の両方を、バランスよく持つことが大切だと思います。