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串カツ田中ホールディングスは、今年の6月に、代表取締役が、創業者の貫さんから、公認会計士の資格を持ち、CFOだった、坂本さんに交代しました。これは、貫さんが、事業を拡大するには、勘に頼ることなく、根拠を持って判断することが重要という考えによるものであり、今後、このような人事判断が適切であったかどうかが注目されます。
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先日、ジャーナリストの千葉哲幸さんが、千葉さんの配信しておられるメールマガジンに、串カツ田中ホールディングスの社長交代について書いておられました。串カツ田中ホールディングスの社歴について簡単に説明すると、1998年に、貫啓二さんが個人事業として飲食店を開業し、2002年に法人化して有限会社を設立、2006年に株式会社に組織変更、2008年に東京都世田谷区に串カツ田中1号店をオープン、2015年に商号を串カツ田中(旧)に変更、2016年に株式を東証マザーズに上場、2018年に持株会社体制に移行するために、商号を串カツ田中ホールディングスに変更し、同時に、会社分割により飲食事業を新設した串カツ田中(新)へ継承、2019年に東証1部(現在は東証スタンダード)に市場変更し、現在に至っています。創業者の貫さんは、創業時から串カツ田中ホールディングスの社長を務めていましたが、今年の6月に、坂本壽男さんに社長を譲り、ご自身は、代表権のない取締役会長に就きました。
千葉さんのメールマガジンによれば、「坂本氏は、慶應義塾大学経済学部を卒業、化学メーカーに勤めていたが、公認会計士の資格を取って大手監査法人に入社。ここで飲食のチェーン企業を担当、またIPOを目指す企業の営業を担当したことから、串カツ田中の貫社長(当時)との知己を得た。そして誘いを受けて2015年2月、同社に入社した。串カツ田中のCFOとなった坂本氏は、株式公開に向けて精力的に仕事に励んだ」そうです。また、貫会長は、社長交代にあたり、坂本社長に対し、「これまで『串カツ田中』を300店舗までやってきたが、勘に頼っていたところもある。これから1,000店舗を目指して日本を代表する食文化にしたい。
そのためには金融の知識、細かい数字の分析、再現性のある根拠とか、しっかりとした経営が必要なんだ」と話したそうです。私は、事業を拡大するためには、管理業務が重要になっていると、貫さんが判断したことに注目しています。事業が拡大しても、創業者がずっと代表取締役に就いているままの会社は少なくありませんが、そうであっても、マネジメント層は、管理業務の比重が高くなっていることは事実でしょう。そうであれば、同じ代表取締役であっても、黎明期のときの役割と、事業規模が大きくなってからの役割は、大きく異なります。
したがって、事業規模が拡大しても、黎明期から代表取締役に就いたままの人がいたとしても、代表取締役として担うべき管理業務は、別の役員が代わりに担っているということもあるでしょう。しかし、貫さんの場合、同社の現在の事業規模で求められている代表取締役の役割は、自分よりも坂本さんの方が適任と考えたことから、実態に合わせて、代表取締役を坂本さんに譲ったのだと思います。とはいえ、貫さんは代表権を返上したとはいえ、創業者であり、また、大株主でもあることから、会社への影響力は持ち続けることに違いはないでしょう。
でも、現在、坂本さんが唯一の代表取締役であるということは、貫さんが、現在の同社では、管理業務が重要であるということを、明確に意思表示したことになると思います。だからといって、事業規模が拡大しても、創業者が代表取締役に就いたままでいることが誤っているということにはならないと思いますが、串カツ田中ホールディングスのような経営スタイルは、現在の時代により適合したものだと、私は考えています。この貫さんの決断が正しいのかどうか、引き続き同社の動向に注目して行きたいと思います。
2022/11/30 No.2177