以前、知り合いの司法書士の方が、顧客の
相続の手続きで銀行に行った時、手続きに
相当の時間がかかったため、不満を感じた
ということをお話しされていました。
時間がかからないことには越したことは
ないのですが、その司法書士の方は、
「今回は、法定相続分通りに相続が行われ
たのに、どうして銀行は時間がかかったの
だろう」と疑問をお持ちのようでした。
要は、法定相続分通りに相続が行われた
場合は、銀行は相続がどのように行われた
かということを確認する必要はないと、
その司法書士の方は考えていたようです。
しかし、銀行が確認していることがらは、
相続財産がだれにどのように相続されたか
ということではなく、被相続人の預金の
払い出しに、相続人全員が合意しているか
どうかということです。
極端なことを書けば、相続人全員でもって
被相続人の預金の払い出し請求をすれば、
銀行にだれがいくら相続するかという
ことを知らせずに払い出しすることが
できます。
ここまで相続について書いてきましたが、
記事の主旨は、何かを他の人に依頼する
ときに、依頼する人の意図は依頼を受ける
人になかなか伝わりにくいということ
です。
別の例として、私が銀行の本社の事務
部門で働いていたときのことを挙げて
みます。
当時は、資金洗浄の対策や、個人情報の
保護に社会が大きな関心がある時代で、
いくつかの新しい法律ができていた時代
でした。
そこで、規則を改定し、例えば、新しく
取引を始める場合は、銀行は顧客に
身分を証明する書類の提示を求める
必要がありました。
ただし、身分の証明を求める理由にも
いくつかあり、融資を受けるために店頭に
来店している人が、その人が名乗っている
人と一致しているかどうかを確認する
「本人確認」を行う場合は、自動車運転
免許証など、顔写真入りの証明書が必要
です。
しかし、子どもの名義の口座を開くために
親がその子どもの代理で銀行に来店した
ときは、その口座の名義人が実在するか
どうかを確認する「事実確認」を行うので
住民票などが必要になります。
(ちなみに、その場合、代理人として来店
した親に対しては、前述の「本人確認」を
行います)
事務部門としては、銀行の店で働く職員の
方に、正確な事務を行ってもらい、顧客の
負担を減らしたいと考えているのですが、
現実には、上記のような説明をしても、
なかなか理解してもらうことに苦心しま
した。
中には、「本人確認」と「事実確認」を
いちいち区別せずに、身分を証明する
書類を統一すれば、事務が混乱しないと
いう意見もありました。
それは一理あるのですが、それを行うと
身分を証明する書類が限定されてしまい
顧客に不便をかけてしまうことにもなる
ので、なかなか実施は難しい状態でした。
こういった経験から、私は、大勢の人で
構成されている組織を、一律に同じような
行動をしてもらうことの難しさを実感
しました。
まず、何をするかということを明確に
する、次にその意図を明確にする、
そしてそれらを理解してもらうための
力量を取得してもらう。
こういったことを、ある程度の時間を
かけて行わなければ、仕事を指示する
人の思う通りには動いてもらうことは
できません。
これは、正しく、組織が人から構成されて
いるという面での特徴であり、このような
性格の課題は、マネジメントスキルが
問われる分野であると思います。
そして、そのマネジメントスキルの差が、
組織の能力の差となって現れるように
なると私は考えています。
ちなみに、私が、仕事のために市役所や
銀行などに行って、いろいろな手続きを
するときに、「それは個人情報保護が
目的で…」と言われることがあります。
そういったとき、場合によっては、
「それは、個人情報保護ではなくて、
守秘義務ですよ」と口から出そうになる
ことがあります。
個人情報保護は、個人情報を提供した
人の個人情報が、提供した目的以外に
利用されることを防ぐことなのですが、
個人情報を他者に漏らしてはならない
ということであると理解している人も
いるようです。
簡単なことのようなのですが、法律
などの主旨を理解するということは
本当に難しいですね。