鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

個人情報保護と守秘義務

[要旨]

法令などで禁止されていることについて、顧客から問い合わせがあったとき、その理由について説明できると、顧客からの評価が高まります。ただし、そのような説明をできるように部下を育成することに労力が必要ですが、それができるかどうかが、業績になって現れると考えられます。


[本文]

仮定の話ですが、20代のサラリーマンの息子を持つ母親が、息子の無駄遣いが気になって、銀行へ行き、息子の預金残高を銀行職員に訊いたとします。これに対して、銀行職員が、「ご子息の取引内容は個人情報なので、ご本人以外の人にお答えすることは禁じられています」と回答したとします。この答え方は正しいかというと、厳密には正しくありません。なぜかというと、預金の残高などは、個人情報ではないからです。

広い意味では、銀行の取引状況は、個人に関する情報なので、個人情報と言えなくもないですが、個人情報保護法の定義する個人情報は、「生存する個人に関する情報であって、当該情報に含まれる氏名、生年月日その他の記述等により特定の個人を識別することができるもの」です。したがって、預金残高などは、個人情報保護法の定義する個人情報には含まれないと考えられます。

また、仮に個人情報であっても、個人情報保護法では、個人情報の目的外利用を禁じているのであり、他人に伝えることが直接的に禁じられているわけではありません。とはいえ、銀行職員が、母親に対して、息子の預金残高を伝えることは、一般的には禁じられているものであり、「当行には守秘義務があるため、お客さまと当行との取引内容は、ご本人にしかお教えすることができません」と説明することが妥当と思います。(私の説明も、法律の専門家から見ると、不正確と思いますが、ご容赦ください)

とはいえ、今回の記事の主旨は、個人情報の説明ではありません。法律の主旨は、なかなか理解してもらいにくいものだということです。私が銀行に勤務していて感じたことは、法令等が新たにできたり変更されたりしたとき、部下に対して、その法令の主旨を説明しても、「理屈は分からないけれど、とにかく禁止されている」としか理解しない人は、残念ながら少なくありませんでした。

最近は、預金取引について、かつてのように融通がきかなくなっていますが、その背景には、資金洗浄を防ぐための「犯罪収益移転防止法」と、特殊詐欺を防ぐための、1日あたりの引き出し額の限度設定などが重なっているという事情があります。これらの事情について理解せずにいると、利用者から「どうしてお金をおろせないのか」と問い合わせがあっても、「とにかく禁止されているんです」としか回答できなくなり、顧客に不満を抱かせるだけとなってしまいます。

でも、「口座を開設する際に時間を要するのは、資金洗浄を防ぐための法律に基づくものです」とか、「キャッシュカードで、1日に20万円までしか預金の引き出しができないのは、特殊詐欺や盗難の被害を防ぐためです」と説明できれば、不便さには変わりがないものの、顧客の不満はやわらぐでしょう。一朝一夕に改善することはなかなか難しいですが、こういった、不便さの理由をきちんと説明できる職員を育成することは、顧客からの評価を高めることになると、私は考えています。

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