[要旨]
破産した山梨県の地場スーパーやまとは、破産後も多くの支持者が現れましたが、そのような支持者が存在したのは、元経営者の小林さんの誠実さへの評価であり、経営者としては事業に失敗してしまう可能性はあるものの、そのような姿勢を持ち続けることは大切です。
[本文]
山梨県の地場スーパーやまとの元社長の、小林久さんのご著書、「続・こうして店は潰れた-地域土着スーパー『やまと』の挫折と教訓」を拝読しました。同書は、小林さんの前著、「こうして店は潰れた-地域土着スーパー『やまと』の教訓」よりも、同社が破産に至った詳細な経緯がわかります。
さらに、今回は、小林さん自身が、会社が破産した原因を自己分析し、それを第8章で明確に述べておられますので、中小企業経営者の方にも、その内容は大いに参考になると思います。一方で、私が同書を読んで、過去の自分のことを思い出しました。もちろん、私は会社を経営したことはありませんが、かつて、私が勤務していた銀行が実質破たん(国有化)したことがありました。そうはいっても、私が感じた苦しさは、小林さんの数万分の一にしか過ぎませんが、小林さんのご経験と、自分の経験を重ねながら読みました。
小林さんは、会社を破産にいたらせたことから、多くの方から批判される一方で、破産後に、3,000万円のカンパが集まるくらい、小林さんを支持する人たちもいました。そして、小林さんを批判する人たちは、やまとが破産して損害を被ったということよりも、かつて、自分たちの商売をじゃまされたという人たちのようです。これは、本にも書かれていますが、やまとが破産に至った直接的な原因は、銀行が支援を止めたからではなく、取引会社からのねたみが原因のようです。
一般的に、破産した中小企業の多くは、破産前に多くの人に迷惑をかけ、最後に力尽きて破産するという例が多いようですが、やまとの場合は、他の会社がやらないことを引き受け過ぎたことから、同業者から煙たがられていたということが仇となったということだと思います。そうでなければ、破産後に小林さんにカンパも集まりませんし、2つも本を書くこともできませんし、小林さんが日本のあちこちで講演するということもできないでしょう。
一方、私も、かつて勤めていた銀行が国有化されたとき、離れた顧客と、引き続き応援してくれる顧客に分かれました。どちらかというと、離れた顧客の方が多くいましたが、引き続き応援すると言って、私を励ましてくれた顧客の存在をありがたく思いました。もちろん、当時の銀行全体としては、結果として迷惑をかけることになってしまった顧客は少なくなかったと思います。だからといって、銀行が、すべての顧客に批判されたということではありませんでした。
そして、正直に言えば、私は、成績がよい職員ではありませんでしたが、最低限、顧客に迷惑をかけないことだけは心がけていました。(ミスをして、何度も迷惑をかけたことはありましたが…)確かに、融資をして欲しいという顧客の要望に100%応えてはいませんでしたが、少なくとも裏切られたとは思われないように努めていました。ですから、いまでも、かつての私が担当していた顧客とは顔を合わせることはできないということはありません。それだけは、ビジネスパーソンのはしくれとしての矜持としていました。
話を戻すと、ビジネスに臨んでいる以上、どうしても他人に迷惑をかけてしまうことは起きてしまいますが、故意に他人に迷惑をかけることだけは避けるべきということを、小林さんの本を読んで改めて感じました。私はこれまで、中小企業経営者の方から、「きれいごとだけでは世の中すまない」、「そんなことを言っていたら、会社がつぶれてしまう」ということを耳にしたことがあります。その気持ちも分からなくもありませんが、「おてんどうさまは見ている」という言い伝えを信じるべきだということを、小林さんの本を読んで、改めて感じました。