鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

リーダーシップは経験から習得する

[要旨]

米国のリーダーシップの研究者のマッコールは、「リーダーシップは生まれつきのものではなく、いくつかの資質の下で、成功や失敗を経験して体得して行くもの」という説を立てています。したがって、経営者の方が、従業員にリーダーシップを習得して欲しいと考える場合は、成功や失敗を経験させる機会を与えることが求められていると言えます。


[本文]

今回も、前回に引き続き、経営コンサルタントの岩田松雄さんのご著書、「共感型リーダー-まわりが自然と動く、何歳からでも身につく思考法」を読んで、私が気づいたことについて説明したいと思います。前回は、米国の経営コンサルタントのコリンズは、米国の700社を調査した結果、ビジョナリー・カンパニー(業界内で卓越した会社)の経営者に必要なのは、カリスマ的なリーダーシップではなく、控えめで謙虚なリーダーシップ、すなわち、第5水準のリーダーシップということがわかったということについて説明しました。

これに続いて、岩田さんは、リーダーシップは経験から学ぶことができるということについて述べておられます。「1988年に、(米国のリーダーシップの研究者の)M.W.マッコールは、『リーダーシップは生まれつきのものではなく、いくつかの資質の下で、成功や失敗を経験して体得して行くものである』という説を立てました。つまり、リーダーシップは、その人の生まれつきの個性ではなく、後天的に開発でき、教えられるという考え方です。

リーダー育成には、『一皮剥けるような経験』が大切であり、一般的に成功するリーダーに必要なものは、次の体験であるとしています。(1)チャンジングな仕事にかかわること。(2)極めて良い、あるいは、悪い上司が模範となること。(3)困難を乗り越えること。そして、リーダーシップを獲得するために必要な能力は、経験から学習する能力に尽きるとし、『その能力は、逆境に飛び込んでいく勇気』や、『周囲の変化やフィードバックを受け入れる』ことにつながると言っています。

リーダーになる資質と意志がある有望な若手には、できるだけ早くプロジェクトリーダーに任命したり、子会社に出向させて、リーダーの経験を積ませることが大切です。日本の大企業のように、出世競争に負けた役員を、姥捨(うばすて)山のように、子会社に転籍させていては、有能なリーダーを育てるチャンスを、みすみす逃していることになります」(98ページ)

今回の引用部分の、「リーダーシップは、その人の生まれつきの個性ではなく、後天的に開発でき、教えられる」ということについては、多くの方がご理解されることと思います。これを換言すれば、リーダーシップは、実際の経験を通してでなければ習得することはできないということでもあります。すなわち、経営者が部下に対してリーダーシップを習得して欲しいと望むのであれば、それに対応して何らかの働きかけが必要です。

そこで、部下にリーダーシップを習得して欲しいと考える場合は、例えば、キャリアパス(昇進や昇格に必要な条件や基準を明確にし、従業員が主体的に目標に向かって取り組むことができるようにする制度)や、ジョブローテーション(従業員のスキルを高めるために、定期的に配置転換を行うこと)を採り入れて実践することが求められます。しかし、中小企業では、こういった従業員の育成に積極的な会社は、あまり多くないように思います。それは、まず、売上や利益を得るための、直接的な活動に関心が向いてしまうこと、または、それらに労力が奪われてしまうということが考えられます。

また、もう1つは、経営者や幹部従業員が、部下の育成に関するスキルを持っていないということも考えられます。繰り返しになりますが、「リーダーシップを獲得するために必要な能力は、経験から学習する能力に尽きる」ということを、経営者の方は認識し、従業員にそのための経験をさせることをしなければ、従業員はなかなかリーダーシップを習得できず、業績にも悪い影響を与えることになると思います。

2024/4/10 No.2674