鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

実践を通して経営戦略を進化させる

[要旨]

ケンタッキー・フライド・チキンは、日本で事業展開した当初は、米国にならってロードサイドに出店しましたが、当時、日本では、自動車で食事に行くという習慣が浸透していなかったことから、売上が伸びませんでした。そこで、経営戦略を修正し、駅前に出店するようにしたところ、売上が増加して行きました。このように、経営戦略は仮説と考えた上で、適宜、修正を行うことが欠かせません。


[本文]

今回も、前回に引き続き、経営コンサルタントの遠藤功さんのご著書、「経営戦略の教科書」を読んで、私が気づいたことについて述べます。前回は、経営戦略を立案するにあたっては、多面的な情報や的確な分析によって、その合理性が担保されますが、その一方で、どんなに多くの情報を集めたり、その情報の分析にどれほど力を入れたりしても、経営環境は常に変化しており、立案段階では完璧な経営戦略にはならないことから、「経営戦略は『仮説』に過ぎない」と認識し、柔軟に軌道修正することが大切ということについて説明しました。

これに続いて、遠藤さんは、日本ケンタッキー・フライド・チキンの戦略転換について述べておられます。「(経営戦略は『仮説』であるという)ことを、日本ケンタッキー・フライド・チキンKFCJ)を例にとって説明しましょう。KFCJは、1970年に、米国のKFCコーポレーションと三菱商事の合弁で設立されました。40年以上経過した今では、直営店、フランチャイズ店合わせて1,000店を超える店舗網を誇っています。しかし、日本に上陸して間もないころ、KFCJは、のっけから大きく躓きました。当初、本家である米国同様、郊外のロードサイドを中心に出店を試みたのですが、客足は一向に伸びません。

『日本人はフライドチキンを食べないのだ』などという苦し紛れの言い訳まで出たと言います。確かに、KFCは、米国では、ロードサイドに店を展開し、大成功しました。『どこへ行くのも車』というお国柄ですから、店舗立地という意味では、妥当な戦略と言えます。ところが、日本では、事情が大きく異なります。米国同様、車が普及しているといっても、当時、日本には、まだ『車で食事に出かける』という習慣も文化も根づいていませんでした。『日本人はフライドチキンを食べないのではない。米国と同じ立地条件でやろうとしたことが間違っているんだ』

KFCJは、この『新たな仮説』に基づいて、経営戦略を大きく転換させました。『学校や会社に通うにしても、町に遊びに行くにしても、多くの日本人は電車を利用する。その帰りがけとか、遊びにいった先とかで、友だち同士で食事をしたり、家に持ちかえったりする。ロードサイドより、駅前の立地の方が、利用率ははるかに高いはずだ。駅前を中心に店舗展開をして行こう』『米国と同じようにやれば、日本でも成功する』という、安易な仮説の下に実行した最初の経営戦略を見直し、日本の文化・習慣を踏まえた新たな『仮説』を立て、経営戦略の軌道修正を行なったのです。

練りに練って立案した経営戦略を、うまくいかないからといって、安易にコロコロ変えるのは、問題があります。しかし、その一方で、当初の経営戦略にしがみつくことも、問題だと言えます。理詰めでありながら、『仮説』に過ぎない。時に、軌道修正する勇気を持つことが大切なのです。当初、立案する経営戦略は、往々にして不完全です。特に、土地勘のない新規事業などの場合、情報も経験も限られているのですから、的外れな経営戦略となってしまうリスクは高いのです。

大切なことは、実践を通じて学習し、経営戦略そのものを『進化』させていくことです。最初の戦略は『60点』でも構いません。たとえ、『60点』でも事業を展開し、実践することによって多くを学習し、軌道修正が可能となります。完璧な経営戦略を求めて、分析や情報収集に過度な時間を費やすより、『60点』で早期にスタートすることが肝心なのです。『仮説』としての経営戦略を持って、まず走ってみる。そして、その経験を通じて、走りながら経営戦略を軌道修正し、『進化』させていく。

こうしたプロセスを経て、経営戦略は実践に裏打ちされた実体あるものへと変化していくのです。その際、『経営戦略の立案とその実行は不可分である』と認識することが大切です。会社によっては、『私、戦略を立てる人、あなた、それを実行する人』というように、経営戦略立案と実行を分離して考える傾向があります。しかし、経営戦略は、実践を通じて学習し、『進化』させて行くべきものです。戦略は戦略、実行は実行と、分けて考えるのではなく、この2つは常に一体であると考えることが大切なのです」(126ページ)

今回の引用部分については、私は、2点、注目しています。1つ目は、「最初の戦略は『60点』でも構わない」ということです。遠藤さんも、「完璧な経営戦略を求めて、分析や情報収集に過度な時間を費やすより、『60点』で早期にスタートすることが肝心なのです」とご指摘しておられます。では、なぜ、60点の経営戦略で構わないのかというと、理由のひとつは、経営環境が、常に変化しているからです。もうひとつの理由は、事業内容は、会社によって異なるからです。会社の業種や事業展開する地域などが同じ場合、複数の会社が実践する経営戦略は似ることはありますが、完全に同じ会社はないので、経営戦略も同じになるということはありません。

そこで、立案の段階では60点の経営戦略の状態にしておき、残りの40点は、それを実践して検証を行い、磨きあげていくことが、100点の経営戦略をつくっていく最短の方法であると、私は考えています。2つ目は、経営戦略を立案するノウハウを習得することが大切ということです。遠藤さんも、「大切なことは、実践を通じて学習し、経営戦略そのものを『進化』させていくことです」と述べておられます。経営者の方としては、早く、成果を得たいと考え、そのための経営戦略も、初めから100点に近いものを立案したいと考えると思います。

しかし、前述のように、経営環境の変化の激しい時代は、立案の時点で100点に近い経営戦略をつくることは難しい状況にあります。そこで、経営者と従業員の方が力を合わせて、経営戦略の実践と検証を繰り返しながら、組織として経営戦略を研ぎ澄ませていく能力を高めていくことが、最短で完成度の高い経営戦略を入手する方法であると、私は考えています。以上の2つ点から、経営戦略は、机上だけではよいものをつくることは難しく、実践と学習という過程を積み重ねることが欠かせないとものであると言えます。

2024/3/29 No.2662