鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

他社の100倍の情報量で圧倒的に勝つ

[要旨]

外壁塗装を主要事業としている阪神佐藤興産では、外壁塗装の受注を依頼する時に、詳細な「劣化診断」を使った診断書を提出するそうです。この診断書は、厚さが5cm以上もあり、このような診断書の提出によって、見込み客からの信頼を得られるだけでなく、価格競争でも優位に勝負できるようになるそうです。


[本文]

兵庫県尼崎市にある、阪神佐藤興産の社長の、佐藤祐一郎さんのご著書、「小さくても勝てる!~行列のできる会社・人のつくり方」を拝読しました。阪神佐藤興産の事業は、主に、マンションやホテルの外壁塗装だそうです。一般に、大型施設はスーパーゼネコンが建設することから、外壁の改修工事は、それを手掛けたスーパーゼネコンに依頼されることが多いそうですが、同社では、そこを狙って注文を取りに行くそうです。

その際、詳細な「劣化診断」を使った診断書を提出するそうですが、その診断書の厚さは、5cm以上になるので、同社では、これを「キングファイル」と呼んでいるそうです。「『キングファイル』は、提案から見積の段階で作成し、お客様に提示します。ファイルの構成は決まっていて、現状や劣化部分の画像データを、まず、明快に示して、その後に見積を示す。その後に、劣化診断の詳細のほか、工程表や図面、必要な工事の有資格者の氏名を記しています。また、外壁塗装の色で悩むお客様向けに、カラーシミュレーションした画像を添付するケースもあります。

作成するのは、以前は、1週間かかっていましたが、現在は、数日まで短縮することができています。各スタッフが、これまでのファイル作成を通して、ポイントを把握できるようになっていることに加え、これまでの工事すべてが工事ごとにファイルされていて、情報としてストック、共有できることも大きい。いずれにせよ、分厚いファイルがスピーディに提案されること自体が、お客様の信頼につながります。キングファイルは、お客様の診断書であり、医療にたとえるなら、治療の際のインフォームドコンセントの役割を果たします。

前述した劣化診断書も含めて、ファイルとして示していくことで、お客様の理解も深まり、納得度も高まる、他社が数枚の見積書を作成しただけで仕事を進めようとするところを、当社は、数十、百数十ページの分厚く重たいキングファイルを示しながら仕事を進めて行く。このような対応を行っていれば、たとえ、他社が値段勝負をしかけたとしても、優位な戦いができます。キングファイルを初めて目にしたお客様は、まず驚き、そしてページをめくるたびに、より真剣な表情になっていかれます。

介護施設営業部部長の桂義樹は、『キングファイルは、お客様も気づかないような細部を重視しつつ、迅速にまとめていく、こうしたことは、大手のゼネコンとはまったく異なる、当社の大きな武器』と、キングファイルの強みを語ります」佐藤さんは、自社とスーパーゼネコンでは、売上が1,000倍も違うので、明確な差別化を行わなければならないと考え、「キングファイル」を作成するようにしたそうです。よく、「中小企業は、大企業と比較して、極め細やかな対応がウリです」と話す、中小企業経営者の方は見かけますが、では、どのようにきめ細かいのかということは、口頭だけではなかなか理解できません。

しかし、阪神佐藤興産のように、視覚的に分厚いファイルを見せつけられれば、同社の仕事の極め細やかさを、大きな説得力をもって納得してもらうことができるでしょう。もちろん、「キングファイル」を作成することは容易ではないことも事実です。しかし、キングファイルをつくれば、価格競争にも勝てるようになると考えれば、いわゆる「どぶ板営業」をするよりも、効率は高いと言えるでしょう。このように、「極め細やかな対応」の視覚化は、中小企業にとって強力なツールになると思います。

2023/12/9 No.2551