鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

現場見学会は社員を育てる場でもある

[要旨]

外壁塗装を主要事業としている阪神佐藤興産では、ゼネコンとの差別化のための手法として、現場見学会を実施しています。見学会では、発注しようとしている工事のイメージをつかんでもらえるだけでなく、同社の現場が整然としていることに顧客が驚き、成約の大きな要因になります。また、そのことが、現場の従業員の方の自信にもつながり、張り合いを持って仕事に臨むようになる効果があるそうです。


[本文]

今回も、前回に引き続き、阪神佐藤興産の社長の、佐藤祐一郎さんのご著書、「小さくても勝てる!~行列のできる会社・人のつくり方」を読んで、私が気づいたことについて説明したいと思います。前回は、阪神佐藤興産は、外壁塗装の受注を依頼する時に、詳細な「劣化診断」を使った診断書を提出するそうですが、この診断書は、厚さが5cm以上もあり、このような診断書の提出によって、見込み客からの信頼を得られるだけでなく、価格競争でも優位に勝負できるようになっているということについて説明しました。

これに続いて、佐藤さんは、スーパーゼネコンとの差別化のための、もうひとつの手法として、現場見学会を実施していることについて、ご説明しておられます。「社員がお客様を訪問して、実際に改修工事がどのように進んでいくのかを、どんなに上手に説明しても、なかなか実感を持って理解していただくのは難しいことです。お客様にしても、社員が訪問して、チラシで説明しても、そのときは、理解したとしても、しばらくすると忘れてしまうことも多いでしょう。しかし、お客様自身が、自ら足を運ぶ体験は、忘れがたい記憶になります。特に、現場というものは雑然としていると思っていたお客様は、環境整備が行き届いていることに、大袈裟でなく驚嘆します。

この驚きに、当社の方も手応えを感じるものです。そして、現場見学が終われば、最寄りのレストランで、質疑応答などの商談を進めます。その商談も含めて全体を成功裏に進めることができれば、そのお客様の成約はもちろん、次のお客様の紹介につながります。そのことが社員にとっての自信につながっていきます。このように、現場見学会は、当社にとって重要な役割を果たしています。社員はお客様に対して、伝えにくいところ、伝わりにくいと感じているところは、当然ながらあるはずです。その分を補ってくれるのが、現場見学会という営業ツールです。

ですから、社員として正しく伝えないといけないという使命感にもつながってきます。さらに、お客様を始め、外部の方に見に来ていただくことが、社員自身が仕事に対して、より一層、張り合いを持つことになります。なお、現場見学会は、社員の家族を対象に行うこともあります。お父さんが、『どのような仕事をしているのか』を家族に見せられる機会があることは、社員のモチベーションアップにつながります。家族の応援が得られるのが、何よりも大きい。『お父さんって、すごい仕事してるね!』我が子のこの声を耳にして、頑張れないお父さんがいるでしょうか」

阪神佐藤興産のように、作業現場の見学を行っている会社は他にもあるようです。以前も、高い業績を収めている、産業廃棄物処理会社の石坂産業さんについてご紹介したことがありました。同社でも、工場見学によって、同社のイメージを高めるのと同時に、従業員の方の士気向上ができるようになったそうです。このような事例を見ると、現場見学を実施することは、会社にとってよい影響が得られると考えられます。

もちろん、きょうまで現場見学会を実施したことがない会社が、いきなり、明日からやらせようとしてもうまくいきません。きちんと実施できるようにするためには、その意義を従業員の方に理解してもらった上で、最初は、社長が案内役などのお手本を見せるなどの、段階を踏む必要があります。そして、佐藤さんが説明しているように、現場見学会に手応えが感じられるようになってくれば、従業員の方の士気が高まって、仕事に積極的に臨むようになることが期待できます。

2023/12/10 No.2552