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阪神佐藤興産は、かつては、下請会社として、塗料販売と塗装工事を営んできましたが、社長の佐藤さんは、下請体質から脱して元請会社になりたいと考えるようになりました。なぜなら、下請会社は、元請会社の指示通りにしか仕事をすることができないなどの理由から、「下請体質を脱しない限りは、本当の成長は得られない」と感じたからだそうです。
[本文]
今回も、前回に引き続き、阪神佐藤興産の社長の、佐藤祐一郎さんのご著書、「小さくても勝てる!~行列のできる会社・人のつくり方」を読んで、私が気づいたことについて説明したいと思います。前回は、阪神佐藤興産では、ゼネコンとの差別化のために、現場見学会を実施しているそうですが、見学会では、発注しようとしている工事のイメージをつかんでもらえるだけでなく、同社の現場が整然としていることに顧客が驚き、成約の大きな要因になりっているだけでなく、そのことが、現場の従業員の方の自信にもつながり、張り合いを持って仕事に臨むようになる効果があるということを説明しました。
これに続いて、佐藤さんは、いわゆる下請会社だった自社を、元請会社に転換させたいと考えるようになったことについて、ご説明しておられます。「先代の頃の当社は、主に下請として塗料販売と塗装工事を営んできました。ところが、1996年に、私が事業を継いでから、私は下請体質からの脱却を図りました。一言で言うと、『下請はイヤだ』という気持ちが強くあったからです。下請は、お客様のために何かしようと思っても、値段も工期もやり方も決まっている。がんじがらめで、仕事そのものに面白みがない。ワクワクするものがないと感じていたのです。
例えば、塗装の際、塗料はモルタル、コンクリートなどの、素地の上に塗りますが、通常は、モルタル、コンクリートが仕上がった後、1週間ほど時間を空けないと、素地表面のアルカリ性濃度が下がらない。中性付近の乾いた素地の上に塗らないと、剥がれてしまったり、変色しまったりします。しかし、工期が迫っている場合は、元請に、『さっさと塗れ』と言われる。元請にそう言われると塗らざるをえない。それが下請という立場なのです。
もちろん、下請から元請に、いきなり鞍替えできるほど、事業というものは甘くはありません。下請として、大きなゼネコンの傘下に入ると、次々と連続して仕事を受けられるケースがあり、営業をしなくても仕事があることも事実です。多くの下請は、営業が苦手という事情もあり、いろいろな不満があっても、下請のままでいるのです。それでも、私は、当時、『下請体質を脱しない限りは、本当の成長は得られない』と感じていました」
佐藤さんは、その後、元請への転換のために、相当の努力を行いました。したがって、「自社も、下請ではなく、元請になりたい」と考えていても、そこに、なかなか踏み込むことができない経営者の方も多いと思います。また、下請にはデメリットだけでなく、あまり営業をしなくてもよいなどのメリットもあります。ですから、下請であることが、100%、問題であるとは限りません。しかし、私も、これからは、なるべく自社が、直接、最終顧客から受注できるようになることが望ましいと考えています。なぜなら、下請のままでは、自社の独自能力を活用できないからです。
かつては、同じような品質の製品を大量に製造して販売すればよいという時代がありました。しかし、もの余りの現在は、製品の差別化が、競争に勝つための重要なポイントになっています。一方、元請の指示に従って仕事をするだけの会社は、まったくできないとは言えないものの、差別化の余地が少なく、競争を優位に進めることが難しい状況のままとなります。さらに、現在は、情報技術が進展し、規模の小さい会社でも、日本中だけでなく、世界中に自社製品をアピールして販売することも可能になっています。このようなことから、現在、下請となっていて、思うような経営ができないと考えている経営者の方は、佐藤さんのように、元請への転換をご検討することをお薦めしたいと思います。
2023/12/11 No.2553