鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

顧客第一主義≠顧客の従業員になること

[要旨]

顧客第一主義は、しばしば、自社の一員ではなく、顧客の会社の従業員のような仕事をしたり、ただの便利屋になったりすることと誤解されることがあります。しかし、本当の顧客第一主義は、顧客起点で商品やサービスを提供する活動を通して利益を得ようとする考え方であり、少なくとも、顧客のいいなりになって、自社の利益よりも顧客の利益を優先させてもよいという考え方ではありません。また、それをわかりつつ、自社の利益を得るための活動から目を背けるための方便にすることも避けなければなりません。


[本文]

サイバーエージェントの社長の藤田晋さんが、従業員の方たちに向けて、顧客第一主義に関する藤田さんの考えを書いたメッセージを読みました。「(顧客第一主義について)当社でよく見られる間違いは、顧客のために働いていると思いこんだ結果、まるでサイバーエージェントの一員ではなく、顧客企業の社員のような仕事になってしまったり、ただの便利屋になってしまうケースです。顧客の言いなりになることは誰でもできますが、事業にはなりません。個人商店のような会社でこういった仕事をしている人はいますが、会社は大きくなりません。いくら顧客のためと言っても、自社の組織の戦略やニーズを理解していない仕事は、組織の中ではやはり片手間と言わざるを得ません」

この藤田さんのご指摘に、私も深く共感しました。というのも、私が銀行で働いていたときの同僚や、経営コンサルタントとして事業改善のお手伝いをしてきた会社経営者の方の中に、顧客第一主義を誤って理解している人が少なくなかったからです。では、なぜ、藤田さんのご指摘されるような間違いが起きてしまうのかというと、私は、まず、「顧客第一主義」のスローガンは、否定されにくいからだと思います。逆に、もし、「当社は顧客第一主義の考え方はしておりません」と言っている会社があるとしたら、その会社はイメージが下がってしまうでしょう。

もうひとつは、「顧客第一主義」のスローガンは、事業活動をした結果、利益を得られなかったり、または、最初から利益を得るための活動をしないですませようとしたりするための免罪符になるからだと思います。でも、藤田さんもご指摘しておられる通り、「まるで、顧客企業の社員のような仕事になってしまったり、ただの便利屋になってしまったりする」ことは、利益を得ることが最終目的になっている事業活動と対立する活動です。

でも、顧客の従業員のような仕事をしていたり、顧客からみてただの便利屋になってしまったりしている人も、本当は、心の深いところでは、うすうす、そのことに気づいていると思います。でも、前述のように、顧客第一主義を誤解している人は、「自分は顧客のために働いている」と思い込んだり、周りの人に主張したりすることで、本当にしなければならないことから目を背けているのでしょう。そこで、私は、顧客第一主義という言い方は、誤解(曲解)を生みやすいので、これを変えるべきだと思っています。具体的には、カスタマーオリエンテッドと(顧客志向主義)表現すればよいのではないかと思っています。

そうすれば、「まるで、顧客企業の社員のような仕事」をしている人は、「これは、カスタマーオリエンテッドの考え方によるものだ」と主張できなくなるでしょう。話をもどすと、「顧客第一主義」の本当の意味は、自社の活動の方針を考える出発点が1番目(第一)なのであって、「自社の利益が第二であり、顧客の利益が第一である」という意味ではないということです。そして、少なくとも、経営者の方は、「顧客第一主義」を、意図的かどうかにかかわらず、誤った理解をして、利益を得る責任を免れようとしてななりません。

2023/8/1 No.2421