鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

戦略はコモディティ化しているから重要

[要旨]

かつて、ヤマト運輸が小口の宅配事業に進出する戦略を実行したとき、その戦略は非常識と思われていましたが、5年も経たずに35社が参入しました。このように、新たな戦略は、すぐに他社に模倣される、すなわちコモディティ化してしまいます。だからこそ、現在は、戦略に沿って事業活動を行わなければ、競争からすぐに脱落してしまうようになっていると言えます。


[本文]

今回も、大阪ガスエネルギー・文化研究所の主席研究員の鈴木隆さんのご著書、「御社の商品が売れない本当の理由-『実践マーケティング』による解決」を読んで、私が気づいたことについてご紹介したいと思います。前回は、事業活動全体の整合性を確保する観点から戦略は重要ですが、戦術を熟知した上で戦略を策定しなければ、戦略を実現する裏付けがないことになるので、机上の空論になりかねないということを説明しました。

これに続いて、鈴木さんは、現在は、戦略がコモディティ化しているので、戦術だけでなく、戦略も重要になっているということを説明しておられます。「今日では、戦略は、すぐにコモディティ化、すなわち、どこにでもある日用品のように一般化しています。戦略が必要であることや、その具体的なつくり方が、ここ20~30年で広く知られるようになりました。インターネットなどで簡単に手に入る情報を用いて分析すれば、自ずと似たり寄ったりの内容の戦略ができあがります。

非常識とされていたような戦略でも、いざ成功が明らかになると、あっという間に模倣されます。例えば、ヤマト運輸が、1976年に社運を賭けて宅急便を始めた当初は、『儲からない小口の宅配事業に参入するとはなんとバカなことをするものだ』と言われていました。ところが、1980年に事業が黒字化したことが明らかになるやいなや、一気に35社も参入しました。非常識とされていた戦略も、5年足らずでコモディティ化してしまったわけです。(中略)

コトラーは、親切にも、業界・市場におけるリーダー・チャレンジャー・フォロワー・ニッチャーという4つの相対的な地位・役割に応じた、標準的な競争戦略まで提示してくれています。トップのリーダーは、全方位で量をかせぎ、2番手のチャレンジャーは、リーダーが真似できない差別化をし、3番手以下のフォロワーはコストをかけずにリーダーやチャレンジャーを模倣し、他社が進出して来ないすきま(ニッチ)を抑えるニッチャーは、得意の分野に集中するというのが、戦略の基本方針だとします。

自社だけがこららの標準戦略を知っているのであればよいのですが、それらは競合他社も知ってしまっているでしょう。したがって、こうした標準的な戦略だけでは、競合他社から抜きん出ることが困難になっています。とはいえ、適切な戦略がなければ、即脱落することを覚悟しなければなりません。コモディティ化しているからこそ、戦略は必要不可欠な前提にもなっているのです。戦略の基本は、やはりしっかりと抑えておかなくてはなりません」(137ページ)

前回は、戦略は、それだけでは事業活動が成功するものではなく、戦術による裏付けが必要と説明し、今回は、戦略はコモディティ化しているという説明をしました。このような説明をすると、戦略はあまり有用ではないと思われがちですが、鈴木さんは、逆に、「コモディティ化しているからこそ、戦略は必要不可欠な前提になっている」と強調しておられます。私も鈴木さんと同じように考えています。なぜなら、戦略の大きな役割は、事業活動全体の整合性を図るものだからだと思います。

戦術が、先駆的であり、実践的であるとしても、それらの戦術がそろって同じ方向を向いているものでなければ、全体として最適な活動とはならず、競争力が低くなってしまいます。だからこそ、先駆的、実践的な戦術を、より際立たせるためにも、戦略はかかすことができないと、私は考えています。繰り返しになりますが、戦略はコモディティ化していますが、だからといって、無用になるということではありません。コモディティ化によって、多くの会社が戦略に従った事業活動をしているからこそ、戦略はますます重要になっていると言えるのです。

2023/3/8 No.2275