[要旨]
Amazonは、当初、在庫を持たない方針でしたが、事業を始めてみてから、それを180度方針転換し、巨大な物流センターを各所に設置しました。そして、それが、現在は、同社の最大の強みになっています。このように、現在は、先を見通すことが難しくなっているので、事業を開始してからも、正しい戦略かどうか、常にモニタリングし、修正が必要かどうかを検証していくことが大切です。
[本文]
今回も、大阪ガスエネルギー・文化研究所の主席研究員の鈴木隆さんのご著書、「御社の商品が売れない本当の理由-『実践マーケティング』による解決」を読んで、私が気づいたことについてご紹介したいと思います。前回は、非常識と思われるような新しい戦であっても、それが奏功することが分かると、すぐに他社に模倣される、すなわちコモディティ化してしまうので、だからこそ、現在は、事業活動の整合性を高めるために、戦略に沿って事業活動を行う重要性が、ますます、高まっているということについて説明しました。
これに続いて、鈴木さんは、事業活動をどのように展開するべきかは、実際に事業活動を行ってみて分かることも少なくないということを説明しておられます。「そもそも、市場や競合他社の動きを予測することが、ますます、困難になっています。新しい市場のみならず、既存の市場においても、変化が激しく、先行きを予測しづらくなっています。古くは、1940年代に、IBMは、世界中で売れるコンピュータは、せいぜい、5台だとし、1950年代には、ゼロックスは、普通紙の複写機は全米で5,000台以上は売れないとしていました。
新しくは、Amazonは、創業5年後の売上高が、計画の1億ドルから、実績は16億ドルに跳ね上がる一方、在庫を持たない方針を180度転換して、巨大な物流センターを各所に設置したことから、14億ドルもの大赤字になりましたが、いまや、その物流(ロジスティクス)網がAmazon最大の強みとなっています。マイクロソフトのトップ(CEO)だったスティーブ・バルマーは、キーボードもない携帯電話のiPhoneに、2年間の通信契約を強制し、500ドルも支払わせるというAppleの発想を、当初は、鼻で笑っていました。新しい商品サービスは、実際にやってみないことには、本当のところはわかるものではありません」(140ページ)
Amazonでさえ、実際に事業活動をしてから方針を180度転換するくらいですから、先を見通すことはとても難しいということが分かります。ちなみに、日本の会社の例をあげると、ABCクッキングスタジオは、当初は、調理器具の販売を行う会社でした。同社の最初の戦略は、調理器具を買う人を増やすためには、料理する人を増やせばよい、さらに、そのためには料理教室を開けばよいと考えて、料理教室を開くことにしたそうです。ところが、料理教室を開いているうちに、料理教室そのものの評判が高まり、料理教室を本業にしたようです。このように、Amazonのような事例は珍しくありません。
では、事業はやってみなければ分からないのだから、事前に戦略を考えることは意味がないのでしょうか?確かに、Amazonの例では、当初は在庫を持たない戦略を立てていたのですから、その戦略は意味がなくなったと言えます。それでも、私は、戦略は立てるべきだと思います。そのひとつめの理由は、事前に立てた戦略は、実践してみてその通りにならないことがあるかもしれませんが、奏功することもあるからです。むしろ、外れることを前提にするのではなく、戦略通りに行くことを前提にして、実践と検証を繰り返しながら、なるべく外れない戦略を立てる能力を高めることの方が効率的でしょう。
ふたつめは、どれだけ精緻な戦略を立てても、戦略通りにならないことを避けることは不可能でしょう。だからこそ、戦略通りにならないことに備え、当初に立てた戦略くがうまく遂行できているかどうかを、モニタリングしながら進めて行くといった対応をとって行くことの方が、戦略が外れたときでも、そのときの状況に合った適切な戦略を見つけやすくなると思います。逆に、単に、戦略を立てずに、成行的に事業活動を行う方が、妥当な戦略を見つけにくなると思います。正解が見つけにくいから、最初から正解を探さないという姿勢よりも、正解が見つけにくいからこそ、正解を見つけ出そうとする姿勢を持つことは、組織としての能力を高め、事業活動をより競争力の高いものにていくことになると、私は考えています。
2023/3/9 No.2276