鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

戦略はそれを裏付ける戦術が必要

[要旨]

事業活動全体の整合性を確保する観点から戦略は重要ですが、戦術を熟知した上で戦略を策定しなければ、戦略を実現する裏付けがないので、机上の空論になりかねません。また、戦術レベルでの成功の要因は、1度だけでの実践では把握できないので、複数回の実践と検証を行う必要です。


[本文]

今回も、大阪ガスエネルギー・文化研究所の主席研究員の鈴木隆さんのご著書、「御社の商品が売れない本当の理由-『実践マーケティング』による解決」を読んで、私が気づいたことについてご紹介したいと思います。前回は、日本では、マーケティングというと、広告宣伝のことを指すと考えている人が多い状況になっているけれど、広告宣伝の効果を高めるためには、広い意味でのマーケティングが実践されていなければならないということを説明しました。これに続いて、鈴木さんは、戦略と戦術の関係についてご説明しておられます。

「管理マーケティングは、(抗議の)戦略である、STP→MM(4P)でビジネスの勝負がつくものとします。コトラーの教科書でも、ほとんどすべてのページがこの戦略の説明にあてられています。(中略)戦術に関する具体的な記述はまずなく、ぜいぜい、事例の紹介で取り上げられた広告や商品の写真くらいしかありません。確かに、戦略は戦術に優先し、戦略の誤りは戦術では償えません。そもそも、戦略と戦術のふたつに分けた意義もそこにあります。戦略なくして戦術なし、戦術は戦略にしたがう、と言われるとおりです。

しかし、こうして戦略を重視するのはよいのですが、戦術を熟知した上で戦略を策定しなければ、戦略を実現する裏付けがないので、机上の空論、絵に描いた餅になりかねません。(中略)広告をテストし、効果を測定し続けた、伝説のコピーライター、ジョン・ケーブルズが紹介しているように、ある通信販売の同じ商品の広告が、同じサイズで同じ雑誌に2種類掲載されたところ、文章(コピー)だけの違いで、売上が19.5倍違った、自動車修理の広告の見出しで、大がかりな感じのする『リペア』を、簡単な感じのする『フィックス』に1語変えただけで、注文が20%増えた、というようなことが起こります。(中略)

このように、ちょっとした表現の工夫のひとつで、売上は大きく変わるのです。『神は細部に宿る』というのは、建築ばかかりでなく、マーケティングでも同じです。それにもかかわらず、かつての私もそうでしたが、広告は広告、どれも大差がないものと、勝手に思い込み、たった1度の広告を出しただけで、比較テストをして効果検証をすることもなく、集客、さらには事業の成功すら、即断してしまうような人が少なくありません。戦術を知らないために、せっかく植えた事業の芽を、それが出る前に摘んでしまうことにもなりかねません」(126ページ)

この鈴木さんのご指摘は、私も、まったくその通りだと思います。そして、この事例から、経営者の方が注意しなければならないことは、つぎの2点だと思います。ひとつは、戦略も戦術も、いずれも大切だということです。問題なのは、どちらかに偏ることです。戦略がなければ事業活動の全体の整合性を得ることができません。しかし、戦略だけを見ていても、事業活動の成功の要因や失敗の要因を見つけることができません。中小企業の事業改善のお手伝いをしてきた経験から私が感じることは、中小企業の経営者の方の多くは、うまく行く戦術はどんなものかということ、すなわち、ノウハウやテクニックなどを求めがちであり、長期的な視点に立つ戦略には関心があまり高くないということです。

もちろん、ノウハウやテクニックは大切なのですが、それらだけに目をとられていると、事業活動がうまくいかなかったとき、その原因をノウハウやテクニックだけと考えがちです。例えば、「魚のいないところで釣りをしていた」というようなことをしていた場合、ノウハウやテクニックの良し悪しを考えているだけでは、なかなか気づきにくくなってしまいます。繰り返しになりますが、ビジネスでは現場目線での情報も重要ですが、それに偏りすぎることが問題なので、経営者の方には、「鳥の目」と「虫の目」の両方を持つバランスが大切ということです。

もうひとつは、鈴木さんご自身も失敗しておられる通り、効果検証をする方は少ないということです。事業活動は机上の理論だけでなく、現場的な要素も大きいところも特徴です。引用の事例からも分かる通り、広告のコピーを変えただけで売上が大きく変わってきています。別の事例では、経営環境が悪化している外食産業の中で善戦しているコメダ珈琲店では、駐車場の1台あたりの駐車スペースの幅を広くすることによって、運転があまり得意でない女性の方たちに、入店しやすいような配慮をすることなどが、来店客数の増加につながっているということです。このように、事業の成功の要因は、細部に宿っているということを前提に、それを見つけるための努力も欠かせません。

2023/3/7 No.2274