[要旨]
現在は、戦略がコモディティ化していることから、事業活動を実践するなかで、有効な戦術、戦略(創発型戦略)を見出していくことこそが、業績の決め手となります。そこで、マーケティング活動を軌道に乗せるまで、何度かテストマーケティングを行うことが欠かせません。
[本文]
今回も、大阪ガスエネルギー・文化研究所の主席研究員の鈴木隆さんのご著書、「御社の商品が売れない本当の理由-『実践マーケティング』による解決」を読んで、私が気づいたことについてご紹介したいと思います。前回は、戦略とはまったく関係なく、偶然に、あるいは競合他社がエラーやミスをしたことで、勝利が舞い込むことが現実には少なくないということを説明しました。これに続いて、鈴木さんは、マーケティング活動は、必ずしも、計画を立ててからそれを実行するとは限らず、実行してから計画を立てることもあるとご説明しておられます。
「戦略がコモディティ化している今日、実行するなかで有効な戦術、戦略(創発型戦略)を見出していくことこそが、業績の決め手となります。例えば(中略)、リクルートは、社内で、『フィジビリ』と称するテストマーケティングを頻繁に行い、成功するパターンである『勝ち筋』の発見に注力しています。前身のサンロクマルで苦戦していたホットペッパーも、全部で23版ある中で、唯一収益化していた札幌版が、半径2キロ内の繁華街のすすきのを中心に、飲食店の掲載が過半を占めていることに気づき、札幌版をモデルとして繁華街の飲食店に絞り込んで水平展開することで、事業全体を黒字化させ、基幹事業に育てあげています。(中略)
ネットビジネスでは、どのようなページがよいかということを議論するのではなく、実際にやってみて、どれが一番受けたか、反応を観察して決めるのが一般的です。(中略)Googleにいたっては、2010年だけで、実際にどちらの反応がいいのか比較してみるテストを、8,157回行っています。それだけでなく、全面的に変更する前に、1%の利用者に変更を通知して、反応を観察する1%テストも、2,800回以上、行っています」(153ページ)
現在は、先を見通すことが難しくなりつつある時代、すなわち、VUCAの時代であることから、鈴木さんのご指摘はその通りだと思います。ただ、鈴木さんは、「計画から実行ではなく、実行から計画へ」という書き方をしていますが、私は、仮々々計画→試行→仮々計画→試行→仮計画→試行→本計画→実行というイメージを持っています。すなわち、正式な計画を立てるために、何度か試行をする必要があると考えているのですが、いずれにしても、基本的には鈴木さんと同じ考えです。
もう1点、私が、中小企業の事業改善のお手伝いをしてきた経験から感じることは、これも繰り返しになりますが、先を見通すことが難しいということは、計画を立てることに意味はないということではないということです。中小企業の多くは、最初に、どういう事業活動をするのかを固定的に決めていることが多く、いわゆるテストマーケティングを実施したり、事業が始まった後も、事業活動がうまくいっているかどうかの検証も行うことが少ないということです。
何度も繰り返して恐縮ですが、VUCAな時代だから計画が無意味なのではなく、VUCAな時代だから、有効な戦術や戦略はどのようなものかを、労力と時間をかけて探らなければならないということです。そこで、実行と検証を繰り返すという工程を省いてしまえば、事業の競争力は高くなることはなく、早い段階でライバルとの競合に敗れてしまうことになるということに注意が必要です。すなわち、事業活動が始まった後は、自社商品の販売に注力するだけでなく、事業活動の検証と改善をする活動にも比重を置かなければなりません。
2023/3/12 No.2279