鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

熟考型戦略と創発型戦略の循環

[要旨]

当初に意図した戦略である熟考型戦略が、そのまま実現することもありますが、当初は意図しなかった戦略である創発型戦略が実現することもは少なくありません。そして、熟考型戦略と創発型戦略は、循環しながら、いわばらせん状に発展させていくべきものと言えます。


[本文]

今回も、大阪ガスエネルギー・文化研究所の主席研究員の鈴木隆さんのご著書、「御社の商品が売れない本当の理由-『実践マーケティング』による解決」を読んで、私が気づいたことについてご紹介したいと思います。前回は、現在は先を見通すことが難しくなっているので、自社の戦略が正しいかどうかは、事業を開始してから分かることもあるので、常にモニタリングし、修正が必要かどうかを検証していくことが求められるということを説明しました。

これに関して、鈴木さんは、熟考型戦略と創発型戦略という考え方をご説明しておられます。「当初に意図した戦略である、『熟考型戦略』が、そのまま実現することもありますが、世界的な経営学者のヘンリー・ミンツバーグが主張している通り、当初は意図しなかった戦略である、『創発型戦略』が実現することも実際には少なくないのです。創発というのは、局所的な取り組みが全体へと波及して、予期しなかった戦略が、後から立ち現れてくることを意味します。

熟考型戦略と創発型戦略は、循環しながら、いわばらせん状に発展させていくべきものと言えます。まず、仮説としての熟考型戦略から始まります。その熟考型戦略のままでうまくいくこともあるでしょう。しかし、実際に試行錯誤するなかから、仮説としての熟考型戦略を超える創発型戦略が生み出されることも少なくなく、それを熟考方戦略として取り込んで、さらに深化させていくというのが基本のサイクルとなります。

もちろん、熟考型戦略がうまくいかず、創発型戦略も生まれずに終わってしまうこともあります。市場の不確実性の度合いに応じて、ふたつの戦略にかけるウェイトは異なってしかるべきです。これまでなかった商品サービスを生み出すというように、不確実性が高い場合は、熟考型戦略は暫定的な仮説とし、試行錯誤を通じた創発型戦略の形成にウェイトを置きます。一方、すでにある商品サービスの延長戦上で拡販するというように、不確実性が低い場合には、熟考型戦略の策定と実行にウェイトを置きます。

ただ、生み出されるかもしれない創発型戦略を取り込める体制は整えておきます。分野により濃淡はあるものの、総じていえば、今後、ますます不確実性が高まって行くでしょうから、創発型戦略のウェイトも高まっていきます。熟考型戦略と創発型戦略の循環は、一巡して終わりというわけではなく、繰り返し発展させます。初めからふたつの戦略を視野に入れて、段階的に使い分けていくべきなのです。想定外や偶発を忌み嫌うのではなく、積極的に取り入れて活かすのです」(146ページ)

引用文のように、意図した戦略を「熟考型戦略、意図しなかった戦略を「創発型戦略」と分類すると、不確実性が高いときにどのよう戦略を活用していけばよいかがわかります。すなわち、「実際に試行錯誤するなかから、仮説としての熟考型戦略を超える創発型戦略が生み出されることも少なくなく、それを熟考方戦略として取り込んで、さらに深化させていく」という姿勢で臨むことが望まれるということです。

したがって、不確実性が高いからといって、戦略を立案することは意味がいということではありません。むしろ、繰り返しになりますが、創発戦略を取り込み、さらに熟考型戦略として深化させ、そのサイクルを回していくという活動が重要ということがわかるでしょう。不確実な経営環境にあるからこそ、確実なものを探り続ける姿勢が求められると言えます。

2023/3/10 No.2277