鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

同じ業界で同じ戦略でも業績は異なる

[要旨]

米国では、ポーターの提唱するポジショニング戦略と、バーニーの提唱する企業能力を重視する戦略の、どちらが重要かという2人の学者の間での論争がありました。これについては、経営環境が複雑化する中にあっては、企業能力を重視すべきという意見の方が優勢のようですが、依然として、ポジショニング戦略の効果も大きい状態が続いています。


[本文]

今回も、前回に引き続き、KIT虎ノ門大学院教授の、三谷宏治さんのご著書、「経営戦略全史」を読んで、私が気づいたことについてお伝えします。三谷教授は、同書に、3つの基本戦略などを提唱したポーターと、VRIO分析を提唱したバーニーの、2人の経営学者の架空の会話を載せています。「[バーニー]ポーターさんが書いた、ハーバード・ビジネス・レビューの同じ業界で同じ戦略でも業績は異なる『戦略とは何か』を読みましたが、そこには、日本企業のことも、ケイパビリティ派のことも、批判しておられましたね。

[ポーター]そんなつもりはないが、事実をかいたに過ぎない。日本企業での、真の『戦略』を持つものは滅多にない。戦略とは、二者択一の厳しいトレードオフだが、『社内合意重視』の日本企業には、それができない。[バ]結局は、『儲かり得る市場を見つけて、儲かるポジショニングをしろ』ということでしたよね。[ポ]その通りで、ケイパビリティ(企業能力)など、いくら磨いても、すぐ、真似られる。ケイパビリティの役割は、企業の独自のポジショニングを支えることだ。(中略)[バ]でも、そのポジショニングの方が簡単にまねられのではないですか?(中略)

例えば、『戦略とは何か』に合った、カーマイク・シネマズは、『20万人以下の都市でのみ映画館を運営』していて、『安い賃料や運営システムでコスト優位』、『常連客中心の個性的マーケティング』だからポジショニングに成功していると書いてありましたが、あっという間に過当競争になって、2000年には破産してしまいました。(中略)すなわち、経営の質や能力は、ケイパビリティなんです。(中略)同じ業界で、同じ戦略をとっていたとしても、業績はバラバラなんです。だから、ポジショニングの問題じゃないんです」

この2人の学説の論争は、やや、バーニーが優勢のようなのですが、完全には決着がついていないようです。私は、経営環境が複雑になるにつれて、取るべき戦略も難易度が高くなってきていることから、これからは、ケイパビリティの重要性が高まっていくと考えています。それは、引用した架空の会話の中で、バーニーが、「同じ業界で、同じ戦略をとっていたとしても、業績はバラバラ」と言っていることからも分かります。とはいえ、ポジショニング戦略は、依然として有用な手段であると、私は考えています。ワークマンが、コロナ禍であっても業績を伸ばしているのは、同社のポジショニング戦略が奏功しているからでしょう。したがって、私は、現在は、企業能力を高めながらポジショニング戦略を活用することが大切であると考えています。

2022/10/16 No.2132