[要旨]
人間は、現在の結果は、過去に起きたことが原因となっている、すなわち、因果関係があると思いたがる習性があり、そのことが、自社が成功した時は、自社の能力が優れていると感がてしまう、集団奉仕バイアスを起こします。その結果、判断を誤り、新たな事業で失敗してしまうことにつながります。
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今回も、前回に引き続き、KIT虎ノ門大学院教授の、三谷宏治さんのご著書、「経営戦略全史」を読んで、私が気づいたことについてお伝えします。三谷教授は、人間は、現在の結果は、過去に起きたことが原因となっている、すなわち、因果関係があると思いたがる習性があるので、そのことが、事業における失敗を起こす要因になっていると指摘しておられます。「(人は)成功は自分のお陰と思い、失敗は他人、もしくは、環境のせいだと感じます。これも、自己の自尊感情を守るためには、仕方がないことかもしれません。
この困難な時代に、失敗を、全部、『自分の責任だ』と引き受けていては、精神的に耐えることは困難です。特に、日本人の場合には、集団になったときに、これが強くはたらきます。これが、集団奉仕バイアスです。自分の帰属する集団に、強く愛着を持ってしまうので、ゆえに、所属する集団への評価は甘くなります。自社の新商品が成功すれば、それは、自社が優れていたからだと思い、失敗すれば、競合他社や、流通・顧客・円高などの環境のせいだと思います。(中略)さらに、人は、その過去と現在のつながり(自社の努力と成功)を、必然だと思います。そして、『この成功は、きっと、すべてがうまくいったからに違いない』と、その結果(成功)に目がくらみます。(中略)
結果として、その『成功経験』が大失敗へとつながります」この三谷教授のご指摘は、単に、成功した人(会社)への慢心を戒めるということだけではありません。成功した人(会社)は、本当に能力があった可能性もあるし、単に、運がよかっただけの可能性もあるので、成功したことだけをもって、自社の能力が高いと判断することは避ける方が良いといことです。
そして、三谷教授は、成功したとしても、本当の成功要因を把握することは難しいし、仮に、成功要因がわかったとしても、それがこれからも効果があるものかどうかはわからないので、成功した後の事業活動においても、予断を持たず、常に、自社の活動の成果を把握して検証することが大切だということを述べておられるようです。元プロ野球監督の野村克也さんの座右の銘で、江戸時代の平戸藩第9代藩主の松浦静山が残した言葉である、「勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし」は、この三谷教授と同じ考え方によるものなのかもしれません。
2022/10/17 No.2133