鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

経験曲線効果とPPM

[要旨]

PPMは、1970年ころの米国のコングロマリットが、事業部の管理を容易にするために考案されました。PPMの軸のひとつが相対的市場シェアとなっているのは、事業展開をするかどうかの判断を、市場シェアで行っていたためです。もうひとつの軸の市場成長率であったのは、経験曲線効果による資金流入の多さで判断を行っていたからです。


[本文]

今回も、前回に引き続き、KIT虎ノ門大学院教授の、三谷宏治さんのご著書、「経営戦略全史」を読んで、私が気づいたことについてお伝えします。三谷教授は、同書に、米国のコンサルティング会社のマッキンゼー・アンド・カンパニーの事実上の創業者のバウアーと、ボストン・コンサルティング・グループを立ち上げヘンダーソンの2人の架空の会話を載せています。「[ヘンダーソン]うちの若い衆でクラークソンっていうのが見つけたんだけど、経験量とともに生産コストがきれいに下がっていく分析結果を見てください。これを経験曲線と名づけました。(中略)

この曲線は、両対数グラフで描くと直線になる、それを未来に向かって伸ばしていけば、『どれだけの生産を、あと何か月続ければ、生産コストがいくらになるか』が読めるというわけ。そうしたら、それを見越してきっちり値下げして行って、敵を振り落とすことができるわけ。(中略)[バウアー]そんな分析をやるために、ハーバード・ビジネス・スクールとか、スタンフォードから、トップの学生だけ、高給で雇っていたのだな。(中略)

[へ]ロックリッジってのも、マトリクスの天才で、ついこの間、『成長・シェアマトリクス』をつくってくれた。これは秀逸で、最近は、『BCGマトリクス』とか、『プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント(PPM)』なんて呼ばれてる。(中略)[バ]確かに、われわれの顧客たちは、多くの多角化事業を、管理しきれずにもてあましておる。それを管理するには、ああいった分類は有用だな。

[ヘ]身動きがとりやすいからと、『事業部制』や『分権化』を全米中で推し進めたのは、バウアーさん、あなたじゃない。チャンドラーの『組織は戦略に従う』を、マッキンゼーはまさに提言しまくうた。そして、管理しやすくなったお陰で、経営者は、どんどん、多角化を進めた。その意味では、『戦略は組織に従う』だったわけだ。でも、やりすぎた。子会社数百社のコングロマリットを、経営者は、もう、管理しきれない。だから、われわれは、経営者に、(『PPM』という)武器を与えたんだ」

この2人の会話から分かる通り、「事業部制」という組織をつくることで、米国の会社は多角化戦略を実践しやすくなったわけですが、そのうち、コングロマリットになった会社は、事業部の管理が煩雑になったので、PPMの活用で、その管理が容易になったわけです。そして、PPMの軸のひとつが、相対的市場シェアになっているのは、当時の米国のコングロマリットが、事業部をどうするかの判断は、市場シェアで判断することにしたからです。

さらに、PPMのもうひとつの軸が市場成長率になっているのは、経験曲線の考え方を取り入れたからです。すなわち、経験曲線効果によって、資金流入がどれくらい見込むことができるかどうかを、市場成長率という軸で診ようとしたわけです。このPPMについては、もっと奥が深いのですが、こういった背景を知ると、もっと学びを深めようというきっかけになるのではないかと思います。

2022/10/15 No.2131