[要旨]
産廃会社の石坂産業では、イメージ改善のために、工場の見学者を受け入れていますが、見学者から従業員の方が、直接、評価されることから、従業員の方の士気が向上し、業績の改善につながっています。このような、従業員の方に部外者の評価が伝わる仕組みを作ることは、経営者の重要な役割です。
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埼玉県入間郡三芳町にある、産業廃棄物処理会社の石坂産業の社長の石坂典子さんのご著書、「五感経営-産廃会社の娘、逆転を語る」を拝読しました。石坂さんは、1992年に、父親が創業した同社で勤務を始め、2002年に、代表権のない「お試し社長」就任(その後、2012年に代表取締役に就任)しました。社長就任時、同社は、有害物質を出しているというイメージを持たれ、地元住民から移転の要望を出されていたことから、廃棄物の焼却をやめ、新たに屋内プラントを建設し、減量化とリサイクルに特化することにしたそうです。
しかし、それでも地元からのイメージはあまり改善しなかったことから、工場見学を受け入れるようにしたそうです。そすると、5Sなどの実施によって、工場内はきれいになっていたり、従業員の方がきちんと見学者にあいさつをしていたことから、徐々に、同社へのイメージが改善していったそうです。さらに、見学者が従業員の方を褒めていたということを、石坂さんが伝えると、従業員の方のモチベーションが高まり、業績のさらなる向上につながっていったということです。
「ここまでの話を振り返っていただければお分かりの通り、最初から狙ってやったことではなく、会社の生き残りを懸けて、悪戦苦闘、紆余曲折した末に、気づいたら。『おもてなし産廃会社』と呼ばれるようになっていた、それだけのことなのです。ただ、ここに至って、私には、はっきり分かったことがあります。社長の私は、いわば、舞台監督、社員が拍手喝采を浴びられるような舞台を用意するのが、仕事なのです。
そのために、お客様やお取引先、地域の方々から、『見られる場』をしつらえる、社員が活躍できる『場』と『機会』をつくる、さらに、そこでもらった言葉を、しっかり社員に伝える。一方、社員の仕事は、『見られるにふさわしい仕事をすること』です。それが、社員にとって、何よりのモチベーションになり、また、学びになるやり方なのです」(105ページ)
よく、社長の役割は縁の下の力持ちという話は聞きますが、石坂さんも、自分の役割は舞台監督とおっしゃっておられる通り、会社の業績を高めるために、「舞台(従業員が活躍できる仕組み)」を作る役割を果たしていると、私は感じました。では、その舞台はどのように作ればよいのかということですが、私は、その最大のポイントは、従業員の方が成果を感じられるようにすることだと思います。
石坂さんの会社の例では、工場の見学者から評価され、それが石坂さんから従業員の方にフィードバックされます。これは、簡単なことのようで、多くの会社では、なかなか実践されていないと、私は感じています。その理由は、そもそも、社長と従業員の間で、情報を共有するという習慣がないからです。社長は、事業に関する多くの情報を得ますが、それを社内に伝えるということは、あまり行われていません。
もちろん、中には、社長以外に知られては困るという情報もあるので、そのようなものは別ですが、本当は、社長以外にも知っておいた方がよいという情報も、社長だけが抱えているということもあるでしょう。そして、この情報の共有は、社長が意識しないと、なかなか、行われません。従業員の方のモラールを高めたい、自律的に活動して欲しいという方は、従業員の方を「主役」にするためにも、情報の共有化から始めることを、私は、お薦めしたいと思います。
2022/9/12 No.2098