[要旨]
石坂産業では、同業他社から、廃棄できなかった廃棄物の、再処理を受注するために、業績改善ノウハウや、自社の財務データを公開しました。このように、ライバルを利する「自利利他」を実践することは、勇気のいる決断ですが、最終的には、自社の売上を増加させることにつながります。
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今回も、前回に引き続き、石坂産業の社長の石坂典子さんのご著書、「五感経営-産廃会社の娘、逆転を語る」を読んで、私が気づいたことについて述べます。リーマンショックの後、他の業種と同様、産廃業界も売上が減少したことから、石坂さんは、同業者の廃棄物の再処理を引き受けることにしたそうです。当時、産廃会社の減量化・再資源化率の業界平均は、85%だったそうなのですが、石坂産業では、新規設備を投資していたことから、減量化・再資源化率は95%だったそうです。
したがって、同社が、同業他社の減量化・再資源化できなかった15%の廃棄物の再処理を引き受けて、5%にすれば、処理不能分の埋め立てコストを、3分の1にすることができます。そこで、石坂さんは、同業他者に、そのメリットを伝えることにしたそうです。「私たち(石坂さんと、父親の会長)は、同業他社に営業をかけると同時に、セミナーなどを開催し、啓蒙活動に力を入れました。
例えば、『産廃業界の脱・価格競争戦略』といったテーマのセミナーを、外部講師などを招いて開催しました。さらに、環境省が策定したガイドラインに基づいて認証される、『エコアクション21』を、同業他社が取得するのを支援する活動も始めました。自分たちの工場を同業他社に公開し、最新鋭の重機の導入や、里山保全といった地域貢献を行ってきたことが、いかに経営に資するかといったことも伝えました。そのために、自社の売上高や経常利益率の推移なども、公開しました。
このように、自社の工場の隅々から経営の内実まで同業他社に見せるのは、この業界では、極めて珍しいことでした。しかし、その結果、私たちのやり方に賛同し、私たちの顧客どなる同業他社がどんどん増え、売上は回復、さらに伸びていきました」(132ページ)ちなみに、石坂産業の財務データは公開されており、2021年8月期の売上高は64.1億円、経常利益は10.4億円、総資産は97.3億円、自己資本は42.1億s円です。超優良企業ですね。
このように、1社でも情報が公開されていることで、産廃業界のイメージが変わると思います。また、石坂さんは、同業他社に、自社が実践している業績の改善方法を、積極的に他社に公開しました。これは、自社の売上を確保することが直接的な目的とはいえ、一般的にはライバルを利することにもなり、相当の決断が必要になるでしょう。ただ、ここで、「自利利他」を実践できたところに、石坂さんの強さが現れたといえるのでしょう。
2022/9/13 No.2099