鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

人材教育なくして設備投資の意味はない

[要旨]

石坂産業では、同業他社に自社工場を積極的に見学させていますが、同社では、機械を使いこなせる人材を、長年にわたって育成してきたことから、他社が、単に、同じ設備を導入しても、自社を完全にコピーすることは不可能と、石坂さんは考えているそうです。このように、設備投資は、機械だけを導入するだけでは成功せず、人材育成が重要な成功要因になります。


[本文]

今回も、前回に引き続き、石坂産業の社長の石坂典子さんのご著書、「五感経営-産廃会社の娘、逆転を語る」を読んで、私が気づいたことについて述べます。前回、石坂さんは、自社の工場を、同業他社に積極的に公開し、また、同業他社の業績改善を支援しているということを説明しました。しかし、石坂さんは、自社の工場を同業他社に公開しても、完全には真似されない、すなわち、ライバルには負けないという自信もあったようです。

「約40億円を投じ、約6年かかりで完成させた、この最新鋭プラントは、そうやすやすとは動いてくれませんでした。いざ、稼働させれば、トラブルに次ぐトラブルの連続、社員とともに、緊急対応に追われながら、稼働状況を把握するための情報管理システムに、追加で、約1億円を投資しました。事故の原因を分析しながら、メンテナンスのノウハウを蓄積し、ようやく、ほとんどトラブルを起こすことなく動かせるようになったのは、それから約5年後でした。(中略)

そんな、ある意味、厄介なプラントを、フルに使いこなして達成したのが、石坂産業が産廃業界に誇る、『減量化・再資源化率95%』という数字です。だから、同業他社に設備を見せ、その仕組みを説明し、製造したメーカーの名前まで教えたところで、完全にコピーしていただくのは、そう簡単ではないのです。(中略)人材教育なくして、設備投資は意味をなしません」(143ページ)

この石坂さんの説明は、理解は容易なのですが、実際には、設備投資は、設備を物理的に導入すればよいと考えてしまっている経営者の方は少なくありません。または、新たな設備を導入したにもかかわらず、それを、自社で使いこなせなかったために、設備投資が失敗すると、それは、設備の性能が悪かったなど、設備に責任転嫁することもあります。確かに、設備投資が失敗したときに、その設備に原因がないと言い切ることはできないものの、設備投資をするだけで事業が改善すると考えることも、安易すぎると言えるでしょう。

とはいえ、新たな設備投資をしたとき、それを使いこなすことができる人材を育成したり、体制を整えたり、効果の高い経営戦略を立案して遂行したりすることは、容易ではないことは確かです。しかし、その重要性を見越して、10年以上かけて、人材育成をしながら、「減量化・再資源化率95%」の最新鋭プラントを完成させた石坂さんは、経営者としてのセンスと実行力があったのだと思います。経営者としての能力の高さは、こういうところに現れるのだと思います。

2022/9/14 No.2100