[要旨]
元厚生労働事務次官の村木厚子さんは、将来世代にかかるコストは、企業が負担すべきと考えておられます。その理由は、優秀な人材が育成されれば、企業はその人材を活用でき、また、若い世代が増加すれば、自社の顧客が増えることにもなるからです。したがって、企業は、そのような恩恵う受けるにあたって、フリーライダーになることは避けるべきと言えます。
[本文]
元厚生労働事務次官の村木厚子さんが、少子化対策に関するコストについて、日経ビジネス2022年11月28日号に寄稿しておられました。「個人的には、将来世代にかかるコストは企業、つまり産業界がきちんと負担すべきだと考える。なぜなら企業は社会に輩出された人材を使う側であるからだ。加えて、子どもの数が増えれば、企業のモノやサービスの利用者の増加にもつながる。
マクロレベルで見れば、企業は圧倒的に人口増の恩恵を受ける側、すなわち受益者なのだ。かつては企業も人にお金をかけていた。大学を卒業したばかりの若者に様々な教育機会を与え、職業人として育てることに力を入れていた。だがバブルが崩壊し、景気が悪くなると、企業は自社で人材を育成するのではなく、外部から調達するようになる。時代の変化が速くなり、求められるスキルが目まぐるしく変わるようになったことも社内育成を難しくし、外部調達に依存する要因となった。
今の日本は企業も大学も、職業人として活躍するスキルを付与する機能を十分持たない、中途半端な状態になってしまっている。優秀な人材が育たないと、企業も成長しない。今こそ、人を育てるにはどのような仕組みが必要で、コストをどう負担すべきか、再度考え直すべきだろう。企業内育成が難しいのであれば、大学にその役割を与え、企業が費用を負担する形でもよい。雇用保険料率をアップし、コストを企業全体で負担する方法もあるだろう。良い人材はただでは手に入らない。企業がフリーライダーになるのだけは、避けたいものだ」
私も、村木さんとほぼ同じ考え方をしています。ただし、社会的なコストを民間会社が負担するということについては、賛否両論あるので、村木さんのような考え方には賛成できないという経営者の方もいるでしょう。ただ、現在は、村木さんもご指摘しておられるように、自社で働いて欲しいような人材が不足していたり、少子化によって供給過剰になりつつあることを考えると、人口が増加しなければ、企業側も経営環境が厳しくなるので、企業側が、単に、少子化問題を傍観していればよいという状況ではなくなりつつあるでしょう。
さらに、企業が少子化対策のコストを負担することは、製品への価格転嫁という形で一般の消費者の負担が増加することになります。したがって、企業だけでなく、消費者側も少子化対策のコストを受け入れざるを得なくなり、結果として、少子化対策のコストは、社会全体で負担するということになるのでしょう。そうであれば、村木さんの考えの通り、企業側も、積極的にコスト負担に応じることが得策であると、私は考えています。確かに、目の前のコストが増加することは避けたいと感じることは理解できますが、長期的な視点からのコスト負担は、1日でも早い経営環境の改善につながると言えるでしょう。
2023/2/16 No.2255