[要旨]
コマツは、かつて、業績が低迷していたとき、事業の絞り込みを行うことで、業績を回復することができました。このとき、どの事業を捨てるかということを、あらかじめ、トップダウンで明確にしていたことが絞り込みの成功の要因であると言えます。もし、経営者が絞り込む事業を事前に明確にしていなければ、現場では絞り込みを決断できず、失敗していたと考えられます。
[本文]
今回も、遠藤功さんのご著書、「生きている会社、死んでいる会社-『創造的新陳代謝』を生み出す10の基本原則」を読み、私が気づいたことについてご紹介したいと思います。「コマツを赤字から再生させ、世界屈指の建機メーカーへと復活させた、坂根正弘社長(当時)は、常に、『何を捨てるか』を最初に考えた。(中略)毎年400億円近い赤字を出していた子会社の不採算事業を整理統合し、300社あった子会社を、1年半で110社減らした。(中略)
コア事業である建機においても、『捨てる』戦略を徹底した。国内市場が縮小する中で、1台でも多く売りたくて品揃えしていた特殊な仕様車を半減させた。その一方で、自信をもって販売できる『ダントツ商品』の開発に力を入れた。(中略)それまでのコマツの商品開発は、『平均点主義』がまかり通り、独自性のある商品が少なかった。しかし、『平均点主義』から凡庸なものしか生まれない。
そこで、『どこを犠牲にしていいのか』をトップダウンであらかじめ明確にした。『あらかじめ』という点が鍵である。現場だけではなかなか『捨てる』という決断はできないからだ。経営トップが直接関与し、『捨てるところ』、『犠牲にするところ』を経営の意思として明確にする。そして、そこから生まれてくるリソースを、強みを、さらに磨くがめに投入したのだ」(65ページ)
遠藤さんは、コマツが事業を絞り込んだことが、事業の改善の大きな原動力になったことを指摘しています。そして、このような事例は、コマツ以外にも見られます。しかし、私は、コマツが成功した本当の要因は、これも遠藤さんが強調していますが、「『どこを犠牲にしていいのか』をトップダウンであらかじめ明確」にしたことだと思います。というのは、業績が低迷している会社の経営者の方が、事業改善のための活動を始めようと、声かけをすることは、しばしば行われます。
しかし、従業員の方の多くは、その活動を実践して、仮に失敗してしまうと、責任を問われかねないと感じ、なかなか改善活動に着手しなかったり、行ったとしてもポーズだけに終わってしまったりすることが少なくありません。さらに、経営者自身も、自分自身で声かけをしておきながら、自らは動こうとしないこともあり、そのような会社は、従業員の方から経営者の本気度を見ぬかれ、結局、何も行われないままになってしまいます。
しかし、コマツの場合は、経営者が「あらかじめ」自らの判断を明確にしたため、従業員の方は、躊躇なく、事業の絞り込みを実践できたのだと思います。これは当たり前のこととはいえ、改善活動を行ったことの結果の責任は、経営者にあるということが、事前に、従業員の方に伝わるようにしたことがポイントだと思います。この、経営者の責任を、事前に明確にするということが、当たり前でありながら、なかなか実践できていないことは、少なくないと、私は考えています。
2022/7/25 No.2049