鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

パーソナルブランディングの効果は低い

[要旨]

かつて、自分の専門性を作り、それをSNSで広めて顧客を得ようとすること、いわゆるパーソナルブブランディングが頻繁に行われたことがありました。しかし、そのような安易な集客法では、フリーランスに仕事を依頼する人は現れないか、現れたとしても、「触れ込み」に釣られ、常識的にはできないような無理なことを依頼する人しか、現れないでしょう。


[本文]

今回も、前回に引き続き、瀧本さんのご著書、「君に友だちをいらない」を読んで、私が気づいた点についてご紹介したいと思います。瀧本さんは、自分の使命の伝え方について、「ラベリング」という言葉を使って説明しておられます。「自分はどういう使命を帯びているのか、どんなビジョンを描いているのか、それを他人に上手に伝えることが重要になる。そのために行うのが、『自分のラベリング』である。

『私はこういう人間で、こんなことを企てています』ということが、一目で伝わるように、自分にラベルを貼るのである。これと似たような考え方に、『パーソナルブランディング』というものがある。『何かの専門分野を作って、自分ブランドを確立し、それをSNSで発信すれば、仕事が向こうからどんどんやってくる』みたいな言説とともに、2011年から2012年にかけて、この言葉が、一時、盛んに流布された。

しかし、はっきり言って、そんなうまい話があるわけがない。ツイッターでいくら発信しようと、実績とスキルがない人のところに仕事は来ない。だいたい、本当に仕事ができるフリーランスは、業界内の口コミで、途切れなく仕事が来るので、ツイッターでわざわざ自分から発信する必要がない。パーソナルブランディングという言葉が誤用されて混乱しているので、私は、あえて『ラベリング』という言葉を使うようにしている」(230ページ)

いわゆる、「パーソナルブランディング」は、まったく効果がないわけではないですが、逆効果の面もあると、私は考えています。私の場合、かつて、「融資に詳しいコンサルタント」と、自分の専門性をほかの人に伝えていたことがあったのですが、その結果、「面倒な銀行との折衝を、経営者に代わって行ってくれる人」と、私の専門性を誤って理解してしまう人が、多く、私の前に現れました。中には、「銀行を欺いてでも、業績の悪い会社に対して融資の承認をとってくる人」と考えている人がやってくることもありました。

すべての見込客がそのようになるとは言えないまでも、「パーソナルブランディング」をすると、その専門家に対して、常識的にはできないことでも、解決してくれそうだという、過剰な期待を持ってしまう人が、まま、現れるということを、私は実感しています。その原因は、「パーソナルブランディング」は、いわゆる触れ込みを行うことなので、それに反応する人も多くなり、その中には、常識的にはできないことを要求する人も含まれてしまうからなのでしょう。

とはいえ、私は、自分の専門性を他の人に伝えることが問題であるとは考えていません。問題なのは、「パーソナルブランディング」を行いさえすれば、自分の事業はうまく行くと、安易に考えてしまうことだと思います。自分のスキルを磨くことは怠り、触れ込みだけに頼ろうとするから、その触れ込みも刺激的なものになり、それに反応する人が、多く、近づいてくるようになってしまうのではないでしょうか?

2022/7/16 No.2040