鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

変化することは異常ではなく正常な時代

[要旨]

コロナ禍の影響に加え、日本人の食の嗜好が変わってきたことから、横浜中華街のシンボル的な存在であった、聘珍楼横浜本店が閉店しました。しかし、現在は、経営環境の変化に対応して事業も変化することは当然であり、そのための撤退は評価される決断と言えます。


[本文]

フリージャーナリストの中島恵さんが、移転のために、5月15日に閉店した、横浜中華街の老舗、聘珍樓(へいちんろう)横浜本店に関する記事を、ダイヤモンドオンラインに寄稿していました。聘珍樓ば、明治17年(1884年)創業の、「日本で現存する最古の中国料理店」で、横浜中華街のシンボル的存在です。私が、初めて横浜中華街に行ったときに、中華料理をいただいたお店でもあるので、ちょっと残念な思いを抱きながら、中島さんの記事を読みました。

中島さんによれば、聘珍楼が閉店を決めた要因として挙げているものは、新型コロナウイルスの感染拡大防止のために営業自粛をしたこと、「日本人向けにアレンジされていない中華料理」を好む日本人が増えている一方で、観光客を抱える横浜中華街では、本格中華料理といっても日本人向けの味付けをしているため、ポジショニングが難しくなってきているということを挙げています。いずれにしても、聘珍楼にとって、経営環境は逆風になっているので、そのような中で、一時的な閉店を選択したことは、評価できる決断だと考えられますし、このことは、多くの方も同様に考えると思います。

ところが、この「撤退戦略」は、簡単なようで、実践することは、なかなか難しいようです。その原因として考えられることは、まず、会社が廃業する場合を除き、自社の事業を撤退するということは、新たな事業に参入するということになるので、そのための労力が大きくなるということです。2つめは、現在の事業を撤退することは、経営者にとって、自分自身の失敗を認めることになると考え、それを避けるために、現在の事業に固執し過ぎてしまうからだと思います。

そうはいっても、経営環境が変わると、続けることはできない事業もあるわけですから、なかなか撤退を決断できない経営者の方は、新たな事業に乗り出すための自信を持つことができないという面が大きいのではないかということを、私の経験から感じています。しかし、いまは、トヨタでさえ、「『自動車をつくる会社』から、『モビリティ・カンパニー』、すなわちモビリティに関わるあらゆるサービスを提供する会社にフルモデルチェンジする」時代です。

事業は、変わらないことが正常ではなく、変わることが正常といえる時代です。したがって、現在は、経営者の方が、変化を避けたり、変化に対応するための能力がないことは、経営者としての資質に欠けるということになるでしょう。そのような面からは、聘珍楼の一時的な閉店は、むしろ、歓迎されるべき決定と言えます。今後、閉店した聘珍楼がどうなるかまでは公表されていませんが、ひとりの中華街のファンとして、同店の新しい事業展開を楽しみにしたいと思っています。

2022/5/22 No.1985