[要旨]
スーツの2着目を半額にしても利益を得ることは可能ですが、このような考え方の着想を得るには、製品の製造に関する費用だけを原価としてとらえる財務会計の情報だけでは得ることができず、管理会計の考え方が必要になります。したがって、経営者の方は、財務会計の基礎的な知識に加え、管理会計を駆使する能力が求められます。
[本文]
前回は、管理会計に基づく原価管理の手法として、活動基準原価計算やスループット会計について説明しました。今回は、もう少し、具体的な原価管理について説明します。よく、紳士服店で、「2着目は半額」で販売される例を見かけると思います。また、そのような販売方法が行われる理由も、よく知られています。日本経済新聞の記事によれば、スーツの原価率は、材料費の割合が10%、従業員の給料や店舗に関する経費などの固定的な経費の割合が80%で、利益率は10%になるそうです。したがって、1万円のスーツを販売したときの利益は1,000円です。
しかし、2着のスーツを販売するための固定的な経費は、1着だけを販売するときとほぼ同じなので、2着目のスーツに関する原価は10%だけになると考えることができます。したがって、1万円のスーツを、2着目は半額で販売したときの売上額は1万5,000円ですが、原価は、材料費2,000円(=1,000円×2着)と、固定費8,000円の、計1万円なので、利益は5,000円になります。このような原価や利益に関する考え方は、製品の原価を、製品そのものの製造にかかる費用に限定している財務会計の観点からでは、着想することは難しいでしょう。
私も、財務会計でも、販売に関する費用も原価に加えればよいのではないかと思うのですが、恐らく、会計の制度ができたころは、製品は作るだけで売れたという時代であり、販売に関する費用を原価に加える必要性が低かったのではないかと想像しています。これが正しいかどうかはともかく、財務会計から得られる情報は、経営者の意思決定には向かない面が少なくないということは事実だと思います。そこで、それを補うために管理会計があるわけです。
したがって、経営者の方は、管理会計を駆使できれば、より、適切な判断が可能になるでしょう。なお、管理会計の理解を深める際には、経営コンサルタントの一倉定さんのご著書、「あなたの会社は原価計算で損をする」をお読みになることをお薦めします。とはいえ、管理会計を学ぶには、やはり、財務会計の知識が必要になりますので、会計の初学者のビジネスパーソンの方は、財務会計を学んでから、管理会計を学ぶことをお薦めします。
2022/4/1 No.1934