[要旨]
銀行のような規則の多い組織では、従業員は、規則を守ることに労力をとられ、会社全体から見たあるべき行動をとることが難しくなります。したがって、難しい課題ではあるものの、全体最適の価値観を持つ従業員を育成することが、これからは重要です。
[本文]
渋沢栄一の玄孫で、コモンズ投信会長の、渋澤健さんが、みずほ銀行に関する記事を書いていました。6月に発表された、みずほ銀行のATM障害問題を精査した報告書において、「失点を恐れ、積極的・自発的な行動をとらない傾向を促す企業風土」があると、第三者委員会が直言したことに対し、渋澤さんは、次のように述べています。
すなわち、渋沢栄一の著書、「論語と算盤」には、「また細事にこだわり、部局のことにのみ没頭する結果、法律規則の類を増発し、汲々としてその規定に触れまいとし、あるいはその規定内の事に満足し、あくせくしているようでは、とても進新の事業を経営し、はつらつたる生気を生じ、世界の大勢に駕することはおぼつかない」とに述べられているとおり、法令や規則を守るだけではいけないと、ご指摘しておられます。
とはいえ、このようなご指摘は、そもそも、渋沢栄一の著書に書かれているものであり、特に、真新しいものではないとも言えます。したがって、問題なのは、みずほ銀行の前身のひとつである、旧第一国立銀行を創設した、渋沢栄一の教えが、21世紀になって活かされなくなったということです。ただ、そうはいっても、渋沢の教えを実践することは、頭で考えるほど容易ではないことも理解できます。
私も、かつて、銀行で働いていましたが、当時は、銀行の規則が頻繁に変わり、また、追加され、職員は規則を守るだけで精一杯な状態でした。むしろ、みずほ銀行の「お見合い」的な対応は、現在の銀行ならではの弊害という面もあります。では、これからは、どういう経営をしていけばよいのかということについては、ただちに回答を出すことは難しいですが、規則を守ってさえいればよいという、部分最適の価値観を戒め、会社全体の観点からどう対処すればよいかという、全体最適の価値観を奨励して、徐々に浸透させていくしかないと考えています。
これは、一朝一夕で効果がでるものではあありませんが、だからこそ、1日でも早く着手していくべきと、渋澤さんの記事を読んで感じました。むしろ、21世紀に生まれた会社の方が、のびのびとしていて、環境変化への適応力に優れ、古い会社を凌駕してしまうかもしれません。だからこそ、伝統ある会社は、渋沢翁の考えを、懸命に浸透させる必要が高いと言えるでしょう。