[要旨]
3つのメガバンクは、コロナの影響を受けた会社への与信コストに1兆円を見込んでいますが、それは、銀行が多額の融資で多くの会社を支援していることの証左とも言えます。
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日経ビジネス2020年5月25日号に掲載されていた、「メガバンクの与信コスト1兆円超」という記事を読みました。(ご参考→ https://bit.ly/2WZjutl )この記事でいう与信コストとは、新型コロナウイルス感染症により事業活動に影響を受けた会社への融資の貸倒引当金と、確定した貸倒の合計額のことです。そして、記事の主旨は、いずれのメガバンクも、「コロナ」の影響を受けた会社への貸倒の見積もりを慎重に行っているが、コロナの影響の先行きが見定められない中では、今後、引当を追加する可能性もある。その中で、もともと業績がよくない会社へは、融資に慎重になることも考えられる、というものです。
私は、記事の内容については異論はないのですが、注目したのは、メガバンクの与信コストの額です。記事によれば、2021年3月期の三井住友FGと三菱UFJFGの与信コストは、それぞれ約4,500億円に、みずほFGのそれは、約2,000億円になるそうです。そして、これらの合計額約1兆円を、どう見るべきかということに、私は、注目しました。仮に、コロナの影響を受けている会社の貸倒引当率を2%とすれば、メガバンクは、1兆円の50倍、すなわち約50兆円の融資で、コロナの影響を受けている会社を支えていることになり、そのことは高く評価できると、私は考えています。
その一方で、与信コストを1兆円も計上することは、融資審査に問題があるのではないか、という疑義も持たれてしまう余地も生れます。しかし、銀行が与信コストを減らそうとすると、かつて、批判されていた、貸しはがしを銀行が行うことになってしまいます。また、銀行が与信コストを抑えようとすることは、融資そのものに消極的になり、かえって銀行の収益機会を逃すことになる可能性があります。しかしながら、銀行が無暗に融資を増やすことは、決して賢明ではなく、やはりある程度の節度は必要になります。そのバランスをどうとるのかというところが、銀行の経営者の能力の問われるところでしょう。
今回引用した記事の「1兆円」は、多いのか、少ないのか、それは現時点では分かりませんが、1年後が2年後に、この記事を思い出して、その結果を検証してみることも興味深いと思います。ちなみに、一般の事業会社でも、リスクと利益のバランスをどのようにとるのか、多くの経営者の方は、いつも頭を悩ませていると思います。その決断は難しいことは確かですが、そこにこそ、経営者を務めることの醍醐味があると、私は考えています。