[要旨]
ワークマンの専務の土屋さんは、自分の考え方は50%間違っているという前提で方針を決定するなど、経営者は縁の下の力持ち的な役割に徹しながら、同社の業績を伸ばしています。
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ワークマン専務取締役の土屋哲雄さんのご著書、「ワークマン式『しない経営』」を拝読しました。この本の大部分は、ワークマンの実践している、ブルーオーシャン戦略について書かれているのですが、それを着実に実践するために、土屋さんが心掛けている「しない経営」について、強く印象に残ったので、ここでご紹介したいと思います。
ひとつは、土屋さんは、従業員の方に対して、「私の考え方は50%間違っている」と伝えているそうです。これは、土屋さんの考え方が絶対ではないということを、伝えようとしているということだけではないようです。
例えば、ワークマンで販売している商品のアイテムが多数であることから、もし、土屋さんの発案で、新しいビジネスモデルを実践しようとすれば、それを実践できてしまうので、同社の実践する戦術が広がらないよう、「50%間違っている」と従業員に伝えた上で、土屋さんは多くの従業員の人たちと話し合ってから、最終的な結論を出すようにしているようです。
ふたつめは、「幹部は、思いつきで、アイディアを口にしない」ようにしているそうです。これも、前述の、「50%間違っている」と、根っこの部分は同じことのようです。幹部は、ビジネス書やセミナーなどで聞きかじった、DX、AI、ビッグデータなどのバズワード(数年ですたれてしまう専門用語)に惑わされ、それを自社にあてはめて導入しようとする傾向があります。
でも、幹部がそれを口にすると、従業員が振り回されるだけでなく、ワークマンの事業の絞り込みに逆行してしまうと、土屋さんは考えているそうです。実際、土屋さんは新しものずきなので、自分を抑えることに、そうとうの我慢をしているとも述べておられます。
みっつめは、従業員個人のがんばりには頼らないようにしているそうです。これは、従業員の方にがんばるなということではなく、「頼らない」といことです。すなわち、経営者は、もともと、もうかるしくみをつくらなければ意味がないという考え方のようです。私も、以前からこの考え方は大切だと思っており、個人のがんばりで会社がもうかるのであれば、経営者の存在は不要になります。
ところで、「経営者の考え方は50%間違っている」、「幹部の思いつきを口にできない」、「従業員のがんばりに頼らない」という前提の会社の経営者に就きたいと考える経営者の方は、どれくらいいるでしょうか?よいか悪いかは別として、これまで私がお会いしてきた経営者の方の多くは、自分の考えを実践したいと望んでいると思いますので、「ワークマンの経営者にはなりたくない」と考えるのではないかと思います。
そして、土屋さん自身が、自らを我慢させているのですから、なおさらそうなのでしょう。でも、土屋さんの考え方は、21世紀型の経営の手法であると私は考えていますし、だからこそ、土屋さんが自ら実践しているわけです。ですので、私は、今後のワークマンの動向に大いに注目して行きたいと思います。