[要旨]
事業活動でより多くの収益を得るには、より大きなリスクに挑むことになりますが、したがって、収益性の高い会社は、リスクを避けずに、上手にリスクに立ち向かうことができる会社ということになるので、時間を要しても、リスクに強い会社を目指すことが望まれます。
[本文]
銀行は融資に消極的というイメージを持っている方も少なくないと思いますが、私が銀行に勤務しているときは、失礼な言い方ですが、ちょっと難のある会社に、どうすれば融資をすることができるかということを、常に考えていました。銀行の融資相手の中で、安心して融資できるという会社は少数で、どうすれば融資できるか、少し、慎重に検討しなければならないという会社の方が、圧倒的に多かったというのが実情です。
それでも、銀行は、自らの収益を得るために、融資額も増やさなければなりませんから、やや難のある会社へも、融資できる材料がないかということを、常に探しながら融資審査に臨んでいました。そして、融資審査にあたって、どの程度まで、融資相手の信用リスク(融資が返済されないかもしれないというリスク)を銀行が許容できるかによって、銀行が融資額を増やせるかどうかが決まります。
その差については、私は、主に次の3つの要件で決まると考えています。すなわち、(1)融資相手が倒産しそうになったときの再生支援ノウハウ、(2)融資相手が倒産してしまったときの融資回収ノウハウ、(3)融資が回収できなくなってしまったときに、それを補うことができる銀行の収益基盤の大きさの、3つです。
ですから、銀行が、自らの収益を増やすために、融資額を増やそうとするには、主に前述の3つの要件を強くすればよいわけです。(実際の銀行の融資総額は、もっと、複雑な要因で決まるので、前述の3つの要因だけで決まるわけではないということを、念のため、付言いたします)
繰り返しになりますが、銀行は、収益を増やすには、融資を増やさなければならず、そのためには融資が回収できなくなるというリスクも増えるわけですから、そのリスクへの備えも高めなければなりません。すなわち、収益を増やすにあたって大切なことは、リスクは避けるのではなく、リスクに強くなるということです。
このことは、私が銀行で働いていた経験から肌で感じてきたことなのですが、現在、私が、中小企業の事業改善のお手伝いをしていて感じることは、リスクに強くなろうとする活動に注力する会社は、あまり多くないということです。
その理由は、リスクに強くなることは、一朝一夕ではできないからだと思います。前述した銀行の例でいえば、ノウハウを蓄えることも、収益基盤を固めることも、着手してから効果が現れるまで時間を要することから、そのような活動は、経営資源が比較的少ない中小企業では、なるべく早く業績を高める活動の方を優先したくなることでしょう。
しかし、私は、「ノウハウを持つ」ということは、「人材を育成する」と、ほぼ、同義語と考えていますが、現在のような競争が激しい時代こそ、人材の優劣が、競争に勝つための要因での比重が高まっており、難易度が高くても、人材育成に注力することが望まれていると考えています。
そして、優れた人材のいる会社ほど、リスクの高い事業にも、果敢に挑むことができ、ライバルとの差をどんどん広げていくことができるでしょう。短期的な成果を得るための活動も大切ですが、そのバランスをとりながら、長期的な成果を得るための活動にも取り組んでいくことが、経営基盤を強固にしていく、いちばんの近道だと、私は考えています。