先日、ある税理士の方から、「銀行では、
融資をしている会社の貸借対照表から、回
産を見つけると言われているが、どうやっ
て見つけているのか」という質問をされま
した。
以下は、あくまで、私個人の考えですが、
次のように答えました。
1つめは、直接的な方法ですが、それは、
資産の明細を検証することです。
もし、数年前から残っている売掛金や、棚
卸資産があれば、銀行はそれらを実質的な
不良資産と判断します。
中には、会社側が、まったく無価値ではな
く、回収したり、販売したりできる可能性
があると考えているものもありますが、保
守主義の原則の観点から、不良資産の可能
性が高いと判断します。
(保守主義の原則については、直接的な説
明ではありませんが、こちらをご参照下さ
い。→ https://bit.ly/2MNQ4KU )
また、資産の明細に「その他」の金額が異
常に多い場合も、不良資産が含まれている
可能性が高いと判断します。
2つめは、前回の決算書と比較して、売掛
金や棚卸資産が増加した場合は、増加分の
うち、何割かは不良資産の可能性が高いと
判断します。
もちろん、売上が増加したときは、売掛金
や棚卸資産も増加しますが、売上の増加率
ときは、増加分に不良資産が含まれている
可能性が高いと判断します。
3つめは、同業者と比較して、売掛金や棚
卸資産の割合が高いときは、その高い部分
については不良資産の可能性が高いと判断
します。
4つめは、実地に会社の状況を見ることで
す。
具体的には、会社を訪問したときに、倉庫
に異常に在庫が多いときは、資産価値がな
いものがある可能性が高いと判断します。
また、経営者や経理担当者の話をききなが
ら、その中で売掛金が回収できなくなって
しまったり、そうなりかけているというこ
とに言及していないか、棚卸資産の中に、
もう売れそうにないものが残っていないか
ということに言及していないかを注意深く
きいています。
以上のような方法で、不良資産がないか、
ある場合はどれくらいかということを探っ
ています。
なお、1つめの方法を除き、いずれも客観
性のある方法ではありませんが、中小企業
は、二重帳簿といった、多くの労力を必要
とし、強い意図をもって行う粉飾をしてい
る可能性は低いので、不自然な資産は比較
的見つけやすいという印象を私は持ってい
ます。
とはいえ、客観的な方法ではなく、疑いが
高いというレベルでの分析は、どれくらい
銀行内部で共有されるのかというと、これ
は銀行によって異なると思いますが、客観
的な根拠がなければ、「資産のうち●●●
は不良資産の可能性がある」とメモ程度に
記録されるか、記録はされない場合もある
と思います。
ただ、融資審査スキルの高い銀行職員は、
会計データの分析から不自然さが感じられ
れば、前述のようなメモがなくても、融資
審査を行う上で、自らその疑いを持った上
で融資審査を行うでしょう。
ここまで述べて来たことからも分かるよう
に、不良資産の把握は、大部分が「疑いが
大きい」というレベルでの把握です。
これに対し、「自社の資産を実際に見ても
いないのに、銀行職員の腹分目で不良資産
と断定されてしまうとすれば、納得がいか
ない」と感じる経営者の方もいると思いま
す。
これについては、銀行側も、実際に確かめ
ていないという前提での判断ですので、決
して断定的な情報とは考えていません。
ここで重要になる考え方は、ビジネスで利
益が得られるのは、リスクを負うことの裏
返しでもあるということであり、銀行自身
もそれをよく分かっています。
なぜなら、銀行が融資申込者に融資をする
ことは、銀行がリスクを負うことであり、
だからこそ、その見返りとして融資利息を
融資をした相手から受け取ることができま
す。
一般の事業でも、売掛金を増やしたり、在
庫を持つということは、リスクを負うこと
であり、それは利益の源にもなります。
ただ、売掛金や在庫といった資産が増えて
いるにもかかわらず、事業の成果は、利益
率が低いか、赤字であれば、そのような資
産は「死産」であり、在庫は「罪庫」とい
うことになってしまいます。
ですから、銀行が不良資産と判断すること
は、会計的な観点から不良資産というより
も、利益を生み出す資産になっていないと
いう意味での査定という面が強いと言えま
す。
むしろ、会社側が、自社で経理規則などを
作成し、それに基づいて帳簿処理をしてい
るだけでも、銀行から見て不自然な決算書
と受け止められることは少なくなると思い
ます。
ここまで、銀行が融資相手の資産をどう見
ているかということを述べましたが、私は
融資を受ける側が、このことを意識する必
要性は少ないと考えています。
なぜなら、会社は事業で利益を出していれ
ば、その方法が正しいのであって、銀行の
考え方に合わせて事業を行うということは
本末転倒だからです。
そして、利益を出している会社の決算書の
内容は、銀行から見て不自然なものとはな
りません。
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