研究家のチャンドラーの「組織は戦略に従
う」というものと、ロシア出身の経営学者
のアンゾフの「戦略は組織に従う」という
ものがあります。
まず、「組織は戦略に従う」というテーゼ
は、チャンドラーが20世紀初頭の米国の
会社を研究する中で、ゼネラルエレクト
リック社やゼネラルモーターズ社などが事
業部制組織を敷いたことから、帰納的に導
いたものです。
この事業部制組織とは、簡単に言えば、会
社の規模が大きくなると、さまざまな課題
に直面することから、その課題ごとに事業
部を置き、そこに権限を委譲するという組
織のことです。
一方、「戦略は組織に従う」というテーゼ
は、自社の特性に合わせて戦略を練るべき
というアンゾフの考えに基づくものです。
これは、有名なアンゾフが提唱した成長ベ
クトル(アンゾフ・マトリックス)を思い
浮かべれば理解できると思います。
成長ベクトルとは、会社の販売する商品と
その販売する顧客について、それぞれ既存
と新規で細分化し、それによってできた4
つのマトリックスのうち、自社の特性から
どの方向を目指す戦略をとるべきかを検討
するという手法です。
例えば、既存の製品を既存の顧客に対して
販売する戦略は市場浸透戦略であり、新た
な製品を新たな顧客に対して販売する戦略
は多角化戦略です。
これらの2つのテーゼは、言葉だけをみれ
ば、180度異なるものですが、経営学者
の間では、それぞれ尊重されているようで
す。
ただ、これは私見ですが、経済的に成熟し
た現代では、勝ち抜くための戦略は限定的
になりつつあることから、会社の組織の特
性に合わせて自ずと戦略が特定される状況
になりつつあり、すなわち、戦略は組織に
従うという状況になっていると、私は考え
ています。
ここまでは、経営学の議論について述べて
きましたが、今回の記事の本旨はどちらが
正しいかということではありません。
これは、私がこれまで多くの会社の事業改
善のお手伝いをしてきて感じることなので
すが、中小企業の経営者の方の多くは、戦
略ありきで事業展開を考えていると感じて
います。
すなわち、事業の成否は戦略によって決ま
ると考えている会社経営者が多いというこ
とです。
このことが直ちに誤っているわけではない
のですが、一方で、事業が失敗してしまっ
たときの理由としては、組織の成熟度が低
い、または、戦略に対応できる人材がいな
いという、組織的な問題になっているとい
う例が多いと私は感じています。
すなわち、中小企業では、経営者の方は戦
略にばかり頼ろうとしており、戦略に比較
して人材育成への関心が相対的に少ない経
営者が多いということです。
これは、組織の能力の開発には時間がかか
るということが大きな要因となっているか
らでしょう。
したがって、今回の記事の結論は、組織と
戦略は密接に関わっており、片方だけを重
視するだけではよい業績には結びつかない
ということです。
むしろ、時間はかかるかもしれませんが、
中小企業の場合、組織の能力を開発するこ
との方が、選択できる戦略も増えることに
なり、結果として強い会社になると私は考
えています。
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