鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

組織は戦略に従う?戦略は組織に従う?

[要旨]

「組織は戦略に従う」と唱えたチャンドラーも、「戦略は組織に従う」と唱えたアンゾフも、著書や論文などを読むと、2人とも、組織と戦略は互いに影響するので、事業を成功させるためには、両方とも重要であると述べていることがわかります。したがって、経営者の方は、優れた戦略を考案し、同時に、組織の成熟度を高めることが求められています。


[本文]

今回も、前回に引き続き、KIT虎ノ門大学院教授の、三谷宏治さんのご著書、「経営戦略全史」を読んで、私が気づいたことについてお伝えします。三谷さんは、2人の経営学者の架空の会話をご著書に書いておられます。ひとりは、米国の経営学者のチャンドラーで、「組織は戦略に従う」(原題は“Strategy and Structure”)という本の著者です。もうひとりは、ロシア生まれで、米国で活躍した経営学者のアンゾフで、多角化戦略を4つに分類した「成長ベクトル(アンゾのフマトリックス)」を提唱したほか、論文の中で、「戦略は組織に従う」という、チャンドラーとは逆の命題を提唱しています。

「[アンゾフ]なぜ、昔(19世紀)は管理職などいなかったのに、いまはいるのだろう、なぜ、昔は集権組織しかなかったのに、いまは分権化しているのだろうという疑問が、ふと、浮かんだんだ。デュポンもゼネラルモーターズシアーズも多くの大京事業部制になったが、そこにはきっと理由があるはずだ。戦略と組織の間には、極めて強い関係があるはずなので、それを見出したかった。[アンゾフ]ところで、君の主著、“Strategy and Structure”は、日本語版では、『組織は戦略に従う』というタイトルになっているのを知っているかい?[チ]そのことは知っているけれど、少し困っているんだよね。

新版(1989年)の序文にも書いたけれど、僕が言いたかったことは、『組織と戦略は互いに影響する』、『戦略は外部環境に従って大きく変わるし、変えやすい』、『でも、組織はなかなか変わらないから、その妨げになることが多い』ということ。さらには、事業部制を取り入れると、多角化が簡単になり、一気に進むから、『組織が変わることで戦略が変わることも多い』とも書いたのだけれど…。[ア]まぁ、刺激的な表現がみんな好きだから、仕方ないね。僕だって、『様々な状況の中で、どう戦略と組織・人を結びつけていくか』を、何十年も研究して、ずっと発言していたけれど、みんなに届いたのは、『アンゾフ・マトリクス』だけだもんなぁ」

この2人の会話は、架空とはいえ、三谷教授が2人の著書や論文を読んだ上で作ったものですから、もし、2人が向き合えば、本当にこのような会話が行われたと思います。そして、会話の内容からわかるとおり、それぞれ真逆の命題で有名になったにもかかわらず、2人の考えは一致しています。このことは、事業で成功するには、組織と戦略の両方が大切であり、片方だけが優れていたとしても、事業は成功しないということを意味しています。

よく、中小企業経営者の方は、事業を成功させるために、優れた戦略はないかと考えていますが、それと同時に、組織の成熟度も高めなければなりません。なお、組織の成熟度が低くても成功する戦略もありますが、それは、商品などの魅力が極めて高いか、事業の大部分がシステム化されているなど、大企業でなければ実践できないものがほとんどです。むしろ、中小企業の場合、組織力の方が強くなければ、そのような大企業との競合に勝てないのではないでしょうか?

2022/10/13 No.2129