鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

高付加価値経営

静岡県にある、プリンターなどの精密機械

を製造している、上場会社のスター精密

元相談役の佐藤誠一さんの著書「野望と先

見の社長学」( http://amzn.to/2DCB7X2 )

を読みました。


この本からは学ぶことがたくさんあったの

ですが、今回は、その中から、高付加価値

経営についてご紹介したいと思います。


佐藤さんは、同書の中で、次のように述べ

ておられます。


「事業経営の本質は付加価値の分配にあ

り、と社長は考えるべきである。


会社の利益が、売上から経費を差し引いて

得られるという考え方は、経理のもので

あって社長の考え方ではない。


社長は、売上ではなくて、付加価値を中心

にして経営を考えなければならない」


まず、「会社の利益が、売上から経費を差

し引いて得られるという考え方は、経理

もの」という指摘は、溜飲が下がる思いが

しました。


私ごとですが、会計を専門としておりなが

ら、経営コンサルティングの仕事をしよう

と私が志した理由は、会計とは事業のひと

つの側面を表すものであって、事業がわか

らなければ、真に会計を理解することには

ならないということを、私の学生時代の恩

師から教えられたからです。


このようなことを書くと多くの批判を受け

るかもしれませんが、多くの会計の専門書

は、会計的な観点での正しさを実現するた

めに、どのような事業運営を行うべきかと

いう論調のものが多く、前述のような教え

をいただいていた私としては、そのような

本に出会うと、胸のつかえる思いをしてい

ましたが、佐藤さんの考え方を読んで、ま

さしくこれが本当の会計の考え方だと感じ

たわけです。


話しを戻して、「社長は、売上ではなく

て、付加価値を中心にして経営を考えなけ

ればならない」ということも、重要な視点

であり、一見、多くの経営者の方もその通

りだと考えると思いますが、実際には、付

加価値はあまり意識されていないように思

います。

 

これは、ドラッカーの言葉である、「事業

の目的の真の定義はたったひとつしかな

い、それは顧客の創造である」( There is

only one valid definition of business

purpose : To create a customer. )に

通じると私は考えています。


ドラッカーは「顧客」という言葉を使って

いますが、顧客は自社の製品を購入する相

手であり、購入する相手を創造することと

は、自社の事業の付加価値を認めてもらう

相手を創造するということです。


別の言い方をすれば、100万円の製造原

価の製品を、付加価値の得られない100

万円で販売するとすれば、それは、その製

品が評価されているのではなく、単に、安

さを評価されて購入されているということ

になります。


でも、120万円で売れる顧客を創れば、

それは20万円の付加価値を創造したとい

うことです。


ですから、佐藤さんとドラッカーの述べて

いることは同じであると、私は考えていま

す。


ところが、これは、私の経験から感じるこ

となのですが、自社製品に十分な付加価値

を加えることが実践できていない会社は少

なくないようです。


そのような会社の経営者の多くは、その原

因について「いまの状況では、この値段で

しか売れない」と説明します。


競争が激しい時代にあって、そのような事

情も理解できなくはありません。


ただ、厳しい言い方ですが、では、なぜ、

付加価値を得られない相手にしか販売をし

ようとしないのか、または、なぜ、付加価

値を得られない製品を製造しているのかと

いうところが真の問題なのだと思います。


それは、ドラッカーの言葉で言えば、顧客

(=付加価値)の創造が事業の目的である

のに、その事業の目的を目指していないと

いうことです。


確かに、付加価値を得ることは非常に難し

い課題です。


しかし、だからこそ経営者はそれなりの能

力が求められるということです。


では、どうすれば付加価値を産むことがで

きるのかということについては、別の機会

に述べたいと思いますが、付加価値を産む

ことを意識している、すなわち、事業の本

当の目的を目指している経営者は意外と多

くはないのではないでしょうか?


もうひとつの佐藤さんのご指摘である、

「事業経営の本質は付加価値の分配にあ

り、と社長は考えるべきである」というこ

とですが、これも経営者の重要な役割を示

していると私は思います。


すなわち、経営者の役割は利害調整です。


利害調整とは、ひと、もの、かねといった

限りのある経営資源から、最大の成果を得

るためにはどう配分するかという判断をす

ることが、その中心です。


この経営資源の配分の仕方は、経営者の腕

の見せどころですが、その結果が、付加価

値の分配として現れます。


従業員に手厚く報いようとすれば人件費が

増えるし、会社の蓄積を増やそうとすれば

内部留保が増えます。


設備を増やせば、減価償却費が増えます。


もう少し分かりやすく述べれば、経費など

の配分は、受動的なものではなく、経営者

の能動的な活動の結果と見るべきというも

のです。


今回の結論は、付加価値というものさしを

通して、経営者の目指すべきことがらが明

確になるということです。


事業運営が思い通りに行っていないという

経営者の方は、佐藤さんの指摘する観点か

ら、自社の状況を見直してみることをお薦

めします。

 

 

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