鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

5億4千万円の貸しはがし

[要旨]

希な事例ですが、融資を受けている会社に過失がないにもかかわらず、銀行職員の個人的感情から、融資方針が縮小、撤退に変更されることもあるようです。したがって、中小企業は、銀行の方針変更に備えて、複数の銀行と取引をしたり、手元資金を厚くするなどの対策も大切です。


[本文]

経営コンサルタントの小山昇さんのラジオ番組を聴きました。番組の中で、小山さんは、かつて、小山さんが経営している会社が、5億4千万円の融資の「貸しはがし」に遭ったご経験についてお話しておられました。では、小山さんの会社が、なぜ、銀行から貸しはがしをされたのかというと、その原因は小山さんにあったわけではないのだそうです。

融資を受けていた銀行の支店長が転勤したところ、その後任の支店長が、前任の支店長の成績がよかったことから、それを妬んで、前任の支店長と懇意にしていた小山さんの会社への融資を回収することにしたからだそうです。もちろん、小山さんは、当時は、その経緯はわからなかったそうですが、さらにその支店長が転勤した後、融資の回収が行われたのは、支店長同士の意地の張り合いのとばっちりだったことを知ったそうです。

このような例は希であり、また、銀行職員の個人的な感情で融資方針を変えることはあってはならないと思いますが、小山さんのような会社でさえも、自分に過失がなくても貸しはがしに遭うことがあるということは、他の中小企業にとっても、他山の石とすべき事例だと思います。

したがって、中小企業は、リスク管理の一環として、銀行の理不尽な手のひら返しにも備えることが賢明でしょう。具体的な対策としては、複数の銀行と取引しておくこと、政府系金融機関からの融資取引の実績をつくっておくこと、手元資金を厚くしておくことなどが挙げられます。会社経営は、攻めるだけでなく、守るという観点からのリスク管理を行っておくことも大切です。

2021/9/27 No.1748

f:id:rokkakuakio:20210924171952j:plain

 

ちっともかっこよくない姿が本当の私

[要旨]

作家で営業コンサルタント和田裕美さんは、華々しいご活躍とは裏腹に、不遇なご経験もお持ちです。したがって、運が悪いと感じることがあったとしても、それは、必ずしも成功しないということにはならず、常に、前向きな気持ちを持つことが大切です。


[本文]

唐突ですが、私が落ち込んだとき、ある作家の方が書いた本の一節を思い出すようにしています。「私のプロフィールには、私が志望大学に落ちて自暴自棄になった時期があったことは書かれていません。(フルコミッションの営業の仕事に就き)営業で一番になったとき、同僚と人間関係を構築できずに悩んだことは書いてありません。母が死んだとき、医療ミスを犯した医者を訴えようとしたことも書いてありません。

本社の正社員になったときに、収入が4分の1まで下がったことも書いてありません。また、同時期に、ライバル会社のスパイと疑われ、誰からも仕事をもらえない時期があったことも書いてありません。ようやく評価を受けて営業部長になったとたん、その外資系企業の日本撤退が決定してリストラにあって、収入も肩書も部下もキャリアも何もかも失ってしまったことも書いてありません。

その後、胃潰瘍になったことも、大腸炎になったことも、お金をだまし取られたことも書いてありません。また、離婚したこともかいてありません。どうでしょうか?私の人生は、自慢できるものでしょうか?でも、こらが本当の私です。ちっともかっこよくない私の姿です」これは、営業コンサルタント和田裕美さんのご著書、「人生を好転させる『新・陽転思考』」の「はじめに」に書いてある一節です。

和田さんといえば、日本ブリタニカで営業職のとき、世界中で第2位の営業成績をあげ、独立後は、営業コンサルタント、作家として、華々しく活躍されておられる方です。でも、前述のような、ネガティブなご経験もお持ちであることを、自らのご著書に書いておられます。私も、勤務していた会社が事実上倒産するという経験はありますが、前述の和田さんのご経験に比べれば、ぜんぜん、苦労とは言えないことばかりです。

それなのに、和田さんは、多くの方の憧れの的になる活躍をしています。だから、不運なことに遭ったとしても、直ちにそれだけで自分は活躍できないと考えてはいけないと思えるようになりました。ビジネスパーソンは、ポジティブな考え方(和田さん風に言えば、「陽転思考」)が大切ということを、ずっと感じています。2021/9/26 No.1747

f:id:rokkakuakio:20210923222237j:plain

 

みずほ銀行システムの金融庁による管理

[要旨]

みずほ銀行がシステム障害を繰り返したことから、金融庁の業務改善命令を受けることになりましたが、そのような事態に至った要因のひとつは、システム部門の人員を過剰に削減したためと考えられます。この事例から、経営者の方は、人員の配置についても重要であるということを学ぶことができるでしょう。


[本文]

日本経済新聞が、9月22日に、金融庁みずほ銀行に対する業務改善命令について報道していました。「金融庁は22日、みずほフィナンシャルグループみずほ銀行に業務改善命令を出したと発表した。みずほに対し、システムの改修や保守点検計画の提出を求める。ATMなどで障害が多発したことを受け、金融庁が同行のシステムを実質管理する」みずほ銀行のシステム障害については、ここで説明するまでもないですが、金融庁の管理下で業務改善計画を提出するという、異例の状態に至ったようです。

このような、金融庁の積極的な対応は、私も驚きをもって見ていますが、それだけ、銀行業務におけるシステムの信頼性の重要さが増しているということなのでしょう。さらに、産経新聞は、「平成30年3月末時点で1,143人だった(基幹システムの)担当者は、今年3月末時点で491人となり、3年間で57%減った。6月の第三者委員会報告書では開発段階から関与していた担当者の減少に言及して、『システム構造のブラックボックス化』が進んでいると指摘していた」と報道しています。

これは、みずほ銀行が、2017年11月に、2026年度末までにグループの従業員数を、約79,000人から60,000人に、19,000人減らすリストラ策を発表していますが、そのリストラ策の一環であると思われます。これは私の経験から感じることですが、経営者が業績を向上させようとするときは、間接部門の人員を削減し、直接部門を増やそうとしたり、または、両者を減らすとしても、間接部門の人員を多めに行おうとしたりすると感じています。すなわち、みずほ銀行では、人員削減をするために、システム部門を服も間接部門の人員が多く減らされたと、私は考えています。

しかし、結果として、それは裏目に出ました。システムの不具合が続いたことで、かえってみずほ銀行の信頼性が失われ、金融庁から業務改善命令を受け、そのことは、顧客を失うことにつながるでしょう。ただ、このことは、銀行以外の会社にとっても、他山の石にすべき事例だと、私は考えています。繰り返しになりますが、業績を高めるためには、直接部門を手厚くすべきと考える経営者の方は多いと思います。

しかし、事業そのものの根幹がぐらついていては、いくら直接部門の方が懸命に働いても、顧客からの支持は得にくいままとなります。だからといって、単純に、間接部門を手厚くすればよいということではありませんが、両者のバランスを、どこで折り合いをつけるかが大切です。ただ、現在は、商品や製品での差別化を行う余地は少なくなっているので、会社の信頼性などの面の重要性が高まってきていることも事実であり、かつてよりは、間接部門の重要性の比重は高まっていると思います。

f:id:rokkakuakio:20210922193915j:plain

 

コンサルタントの真の顧客は最終需要家

[要旨]

コンサルタントの顧客は顧問先と考えられがちですが、真の顧客は、顧問先の先にいる、その顧問先の顧客だと考えているコンサルタントもいます。そして、コンサルティングを受ける会社も、そのような価値観で一緒に事業に臨むと、より確実に向上するでしょう。


[本文]

経営コンサルタントの渡邉昇一さんが配信しているポッドキャスト番組に、不動産会社向けのコンサルティングを行っている、リアルターソリューションズの社長の、内山義之さんがご出演しておられました。番組の中で、内山さんは、「コンサルタントの顧客は顧問先と考えられがちだが、真の顧客は、顧問先の先にいる、その顧問先の顧客だと考えている」とお話しておられました。これは、コンサルタントは、顧問先の顧客から顧問先が支持を受けるようなビジネスを提案しなければならないという意味であり、至極当然のことです。

このことは、コンサルティングを受ける会社の経営者の方も理解できると思うのですが、私も、これまで多くの会社の事業改善のご支援をしてきて感じることは、コンサルタントと顧問先の経営者の間では、意見が合わないことは少なくありません。これも当たり前のことですが、ほとんどの会社経営者の方は、顧客から支持されるビジネスを行い、その結果、業績も高めたいと考えています。

しかし、実際には、経営者の方は、どのような製品を製造するか、どのような商品を販売するか、どのような方法で販売をするかという、自分のやりたいビジネスを、経営者の方の心の深い部分で先に決めているという例は少なくありません。そのような経営者の方の想いが、必ずしも誤っているわけではなく、経営者の方の選んだ事業が顧客から支持を得るということもあります。ただ、現実的には、そのようなケースはあまり多くないことも事実です。(これは、私自身にもあてはまり、私も起業当初から、事業の内容を変更せざるを得ませんでした)

だからといって、今回の記事の結論は、コンサルティングを受ける会社は、コンサルタントの提案に従わなければならないということではありません。「顧客から支持を得るにはどうすればよいのか」という価値観を最優先することが、より大切であると考えています。同じ価値観を持っている人同士でも、意見が異なることがありますが、価値観が異なる人同士よりは、意見を収斂させやすくなるでしょう。また、これは私自身の反省でもあるのですが、自分のやりたいことよりも、顧客に支持される事業を行うということが、ビジネスパーソンの基本だと思います。

f:id:rokkakuakio:20210921213314j:plain

 

中小企業融資のリスクウェイトの変更

[要旨]

銀行は、自己資本比率規制によって、融資できる金額に上限があります。しかし、金融庁は、2024年3月末から、中小企業向けの融資の規制を緩める予定であり、銀行の融資姿勢が改善することが予想されます。


[本文]

9月20日の日本経済新聞が、「金融庁は2024年3月末から、地方銀行や信用金庫に新たな資本規制を導入」し、「中堅・中小企業向け融資のリスクを今より軽くする」と報道していました。銀行には自己資本比率規制というものがあり、融資できる金額に上限があります。ほとんどの地方銀行が該当する、国内業務だけを営んでいる銀行は、自己資本比率は4%以上でなければならないとされていますが、これを簡単に言えば、純資産の25倍が融資の上限ということです。

例えば、純資産が100億円の銀行の自己資本比率が4%以上となるためには、銀行の資産(そのほとんどは融資債権)は、純資産の25倍の2,500億円以内でなければなりません。(自己資本比率4%=純資産100億円÷資産2,500億円)しかし、自己資本比率規制において、自己資本比率を計算するときは、単純に、金額だけで計算をせず、融資額に対してリスクウェイトを乗じて計算します。例えば、格付がAA以上の大企業への融資のリスクウェイトは20%とされていますが、これは、自己資本比率を計算するときの融資額は、実際の金額の20%で計算すればよいということです。

このようなリスクウェイトが低い融資を増加しても、自己資本比率を引き下げる度合いは低いので、より多くの融資ができるということになります。そして、中小企業への融資のリスクウェイトは、現在は、75%となっていますが、日本経済新聞の報道によれば、それを引き下げることによって、理論上は、さらに、中小企業への融資を増やすことができることになります。

ただし、東洋経済新報社の調査によれば、地方銀行100行のうち、自己資本比率が最も低い島根銀行自己資本比率は7.12%であり、自己資本比率がネックとなって融資を増やすことができないという状態にはなっていません。とはいえ、銀行側も、リスクウェイトが低いと、心理的な面で融資に応じやすくなるということは確かだと思います。

f:id:rokkakuakio:20210920163147j:plain

 

ピンチのときは客観的な情報が重要

[要旨]

資金繰支援などを受けるには、自社の財務の状況が悪いなりに、詳細な財務データを示す方が、協力を得やすくなると考えられます。中小企業では、経営者の人間関係で取引をすることが多いですが、会社の状況がピンチのときは、客観的な情報の方が重要さを増します。


[本文]

今回も、前回に引き続き、スーパーやまとの元社長の小林久さんの、ご自身の分析による、会社が倒産した原因について、私が特に参考になると思ったものをご紹介します。それは、大手食品卸会社からの納品停止を予測できなかったということです。もう少し具体的に書くと、当時のやまとは、銀行から、融資返済のリスケジュールをしてもらったり、卸会社にも、商品代金の支払を猶予をしてもらったりしていたそうです。

そして、小林さんが予測できなかったというのは、大手食品卸会社は、しばらくは、やまとの味方になってくれると思っていたのに、予想以上にやまとの信用状況をシビアに見ていたということです。これを言い換えれば、大手の会社には、浪花節的な考え方はあまり通用せず、財務指標が重視されるということです。

したがって、もし、小林さんが、大手の会社の判断の仕方を理解していれば、メインバンクとともに、綿密に卸会社への協力の要請を行うことなどで、突然の納品停止という事態は避けることができたかもしれません。では、このような小林さんの失敗事例が、ほかの会社にどのような面で参考になるかというと、中小企業の経営者の方の多くは、自社のことは銀行や取引先が理解してくれていると考えがちだということです。

事業規模が小さいうちは、経営者の方の「顔」や「信用」などで取引をすることが多いので、経営者の方は、自社に対して支援を依頼する相手に対しては、客観的な財務データなどを示さなくても大丈夫と考えがちではないかと思います。でも、協力をする相手は、協力の依頼に応じるかどうかを判断するにあたっては、不透明な部分が多いと、ネガティブに考えてしまいます。

一方で、財務データを示してしまうと、余計に不安を大きくしてしまうかもしれないという懸念もあるでしょう。でも、協力を依頼する時点で、自社の信用力はあまり大きくないということを自分で認めているわけですから、そうであれば、協力を得るには、不透明な部分が少ない方が、相手の協力を得るために有利に働くと言えるでしょう。繰り返しになりますが、ピンチのときは、浪花節的な考え方は、あまり有効ではないということに注意が必要です。

f:id:rokkakuakio:20210919214004j:plain

 

資金繰だけでは事業は継続しない

[要旨]

小売業の会社では、現金での売上が多いことから、資金繰中心の管理が行われることが多いようです。しかし、そのような管理だけでは、資金繰の安定化や、より高度な事業展開を実践しにくいので、専門家の助言などを活用することが大切です。


[本文]

先日、山梨県の地場スーパー、やまとの元社長の小林久さんに、Podcast番組にご出演いただくことになり、リモートでお話をお伺いし、音声を収録しました。ちなみに、スーパーやまとは、2017年に信用不安から事業を停止せざるをえない状況になり、自己破産を申請しました。そこに至るまでの経緯などは、小林さんのご著書、「続・こうして店は潰れた」に詳しく書かれています。

話を戻すと、小林さんのお話は、ひとつひとつ心を打つものでしたが、特に、多くの経営者の方の参考になると思われるものとして、小林さんご自身の分析による、会社が倒産した原因をご紹介します。そのひとつは、「社内に財務の専門家を置かず、日銭商売のやり繰りに甘えて、基本的な改革が遅れたこと」です。会社は、資金繰さえ維持できれば、半永久的に継続することができます。

スーパーマーケットは、ほぼ、現金商売なので、小林さんご自身が指摘しているように、売上さえ上げることができれば、事業を継続できると考えられがちです。しかし、日々の資金繰管理が中心の管理では、事業が継続できるかに重きが置かれているので、資金繰をより安定させるための対策や、ライバルに差をつけるための新たな事業を実施するための資金調達などは、なかなか着手できず、長期的には競争力が弱まってしまいます。

そこで、そのような状況を改善するためには、資金繰管理に加えて、自己資本を充実させることための精緻な収益管理や、資金調達戦略を立案し実行することなどの対応が必要です。とはいえ、現実的な問題として、一歩進んだ財務管理は、中小企業ではなかなか実践できない状況にあることも多いと私も感じています。財務管理に詳しい人材を、専門に雇用することはなかなか難しいでしょう。

そこで、顧問税理士事務所の方に、オプションで財務管理に関する支援を依頼しても、財務分析まではできるもののビジネスに関する助言までをできるという事務所スタッフの方はあまり多くなく、なかなか思うような助言をしてもらうことができないという場合も少なくないようです。

そこで、財務管理に関して、適切な助言が欲しいという方は、セカンドオピニオンを提供している税理士事務所や、小職のような中小企業診断士に、財務診断をしてもらうことをお薦めします。経営環境の厳しい時代こそ、外部の支援を上手に活用することが、より大切になってきているということを、小林さんのお話をきいて、改めて感じました。

f:id:rokkakuakio:20210918152107p:plain