鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

経営者と従業員の法律的な関係

[要旨]

日本には、雇用のルールがあるものの、会社と従業員の関係については明文化されたルールがありません。そのため、会社経営者は、法律上は、株主からの委任についてのみ責任を負うことになります。


[本文]

元外務官僚で、作家の佐藤優さんの、東洋経済オンラインの記事を読みました。主旨は、いま、職を失い、路上生活をする非正規雇用者に対し、彼らは、職業選択の自由のある中で、非正規雇用者労働者になることを自ら選んだのだから、そうなってしまうことは、自己責任と言われることがある。

しかし、会社の都合で、容易に解雇することができる、非正規雇用者の存在を望んでいるのは雇用者側であり、非正規雇用者が失業したことを、彼ら自身の責任と主張することは、責任転嫁である、というものです。私は、この佐藤さんの考え方には賛成できるのですが、一部、省略されていると感じるところがあります。というのは、法律(会社法第355条等)上は、株式会社の取締役は、株主に対してのみ責任を負っているからです。

だからといって、従業員に対して責任はないのかというと、当然のことながら、従業員には安心して働いてもらうことは欠かせないため、社会的責任はありますが、そのような責任は、法律で明文化されているものではありません。労働関連法規には、経営者側が雇用に関して守らなければならないルールは書かれていますが、一定の要件を満たせば、従業員を解雇することは可能です。

要は、株式会社の取締役は、最終的には、株主の目的を達成するために活動しなければならず、そのためには、従業員を解雇することもあるということです。しかしながら、経営者は、「株主のため」という大義名分があれば、どんどん従業員を解雇してよいのかというと、佐藤さんの指摘しておられるように、そうであってはならないと、私は考えています。現実には、事業は、従業員の協力が得られなければ、うまく行きません。

その一方で、「労務倒産」という言葉があるように、従業員の要求を受け入れすぎると、会社の事業は続けることができなくなります。そこで、繰り返しになりますが、会社が従業員を雇うルールは明文化されているものの、会社と従業員の関係や責任については明文化されていないところに、佐藤さんの問題とするところの原因があると、私は考えています。

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コミットメントラインによるアピール

[要旨]

コミットメントラインは、銀行から融資を受ける予約をするという契約ですが、それだけでなく、自社が銀行から支援を受けることができるということをアピールできることにもなります。


[本文]

帝国データバンクの阿部成伸さんが、ダイヤモンドオンラインに、コミットメントラインについて寄稿していました。阿部さんによれば、「2020年1月から9月までにコミットメントライン契約の締結を発表した上場会社は165社、総契約金額は3.1兆円となり、前年同期と比較すると、件数は4.7倍、金額は9.5倍に急増している」というものです。この中には、大きく報道された、トヨタの1.25兆円の契約が含まれていると思われますが、このような、コミットメントラインの契約が急増した背景には、コロナ禍による経営環境の悪化があることはいうまでもありません。

ちなみに、コミットメントラインとは、「会社と金融機関が契約を結び、『あらかじめ設定された期間(通常1年間)』、かつ、『契約額内』であれば、審査手続きを経ることなく、融資を受けられる約束(コミット)をする契約で、金利とは別に手数料がかかるものの、必要に応じたスムーズな資金調達が可能になる」、特別な契約のことです。このように、今年は、トヨタのような優良な会社でさえ、つぎつぎと、銀行とコミットメントラインを契約する報道が相次ぎ、それまでは、その役割が低下しつつあると考えられていた銀行が、再び、脚光を浴びつつあると、私は、考えています。

さらに、前述したとおり、コミットメントラインは、直接的な融資契約ではなく、融資をしてもらうことを約束する契約であることから、その契約をすること、そして、それを報道機関などを通して広く公にするということは、「当社は、経営環境が悪化しているが、銀行から支援を受けられる約束を得たので、安心して取引して欲しい」というアピールをすることにもつながります。このように、銀行は、融資をしてもらうだけでなく、自社に支援をするという姿勢を示してもらえるという面でも活用することができます。

ちなみに、クレジットラインは、通常は、数十億円以上で契約され、実質的には、上場会社かそれに準ずる会社でなければ利用できません。そこで、中小企業の場合、クレジットラインに代わるものとして考えられる契約は、現在、注目を浴びている、資本性ローンであると、私は考えています。もし、銀行から資本性ローンの契約を受けることができれば、単に、資本性ローンの契約額の資金調達ができるというだけでなく、自社が銀行から強い支援を受けているという対外的なアピールができることになるでしょう。

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組織に所属したい欲求を活かす

[要旨]

人は、そもそも、組織に所属したいという欲求がありますが、会社に必要とされていると感じることができなければ、会社を離れたいと考えてしまいます。従業員の定着率を高めたいと考えている経営者の方は、従業員の方に、会社から必要とされていると感じてもらえるようにすることが大切です。


[本文]

経営コンサルタントの梅本泰則さんが、梅本さんのメールマガジンで、事業承継について書いていました。すなわち、ジャパネットたかたや、星野リゾートのように、円滑に事業承継が行われた会社もある一方で、ソフトバンクグループやファーストリテイリングでは、一旦、社長が交代したものの、その後、再び、創業者が社長に就いた。

後者の事例のように、一旦、バトンタッチした創業者が、再び経営者にもどってしまう理由として考えられることは、「権限」を失ってしまうことと、「居場所」がなくなってしまうため、それらを再び得ようとするからである。したがって、事業承継がなかなか進まない理由の多くは、事業を受け継ぐ側ではなくて、事業を引き渡す側にある、というものです。

私は、梅本さんの指摘は事実だと考えています。その一方で、事業を引き渡す側の決断も、それほど容易ではないとも考えています。というのは、特に、創業者にとっては、会社は自分の分身でもあり、その運営に、いままでの創業者の人生の多くを犠牲にしてきているわけですから、なかなか「権限」や「居場所」を手放したくないという気持ちも理解できます。

だからといって、事業承継が遅々としてよいのかというと、そういうわけにもいかないということも事実です。やはり、経営者は、自分の分身を、いつかは、後継者に譲る日が来るということを、覚悟しておかなければならないでしょう。そうしなければ、創業者としての功績が、「未練の強い経営者」という批判に変わってしまうこということになりかねません。

ところで、今回、梅本さんのメールマガジンを引用した理由は、事業承継がどうあるべきかを伝えようとしたからではありません。人は、組織に属したいという欲求があるということがわかる、よい事例だと考えたからです。これは、マズローの欲求5段階説の、所属と愛の欲求(社会的欲求)にあたるものといえるでしょう。前述の例では、創業者は、なかなか会社から離れられない一方で、いまは、従業員の方の定着率が低いことで頭を悩ませている経営者の方も多いと思います。

でも、人は、本来は、組織に所属したいという欲求があるわけですから、「会社に自分の居場所がある」と感じてもらうことができれば、従業員の方の定着率は改善すると思います。その具体的な方法についての言及は割愛しますが、ジャパネットたかたの創業者の高田明さんは、同社を去った後、Jリーグに加盟する、プロサッカークラブの、V・ファーレン長崎の社長に就任し、経営危機にあった同クラブの立て直しに力を発揮しました。高田さんは、自分を必要としてくれる場所を見つけたことに満足できたから、もとの居場所にもどる必要はなくなったと言えるのでしょう。

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あえて反対意見を採用する

[要旨]

事業運営の判断には、必ずしも100%正しいということはありません。そうであれば、自らの意見も、相手の意見も、どちらも正しい可能性があるので、あえて、自分の考えとは逆の意見を取り入れることで、組織全体のモラールを高めると、そのことが、よい結果を導く大きな要因になることもあります。


[本文]

私は、特にフリーランスになってから、あえて、自分とは異なる意見を取り入れるようにしています。例えば、顧問先の戦略策定会議などでは、他の参加者の方から、私の意見と異なるものの、前向きの意見が出たときは、相当の見当違いであるという場合を除き、その意見に同意するようにしています。なぜかというと、事業運営上の判断は、事前には、100%正しい結論を導くことはできないからです。さらに、最善の判断と思われる案も、すべての面において100点のものはなく、長所と短所があります。

ですから、これからどのような戦略・戦術を行おうかということを考えたとき、私の考えが誤っていて、他の人の考えが正しいかもしれないし、両者が正しいかもしれないし、両者が謝っているかもしれません。例えば、東洋経済新報社の記事によれば、お互いに埼玉県南西部を地盤とする、スーパーマーケットのベルクとヤオコーは、店舗オペレーションに関し、ベルクは本部主導で行っているのに対し、ヤオコーは店長に大きな裁量を与えるという真逆のことを行っていますが、両社とも業績を伸ばしています。

この2社の事例のように、戦略・戦術は、真逆のことをしても、どちらも正解になることがしばしばあり、それが事業運営の面白いところであると、私は考えています。そうであれば、異なる意見が出たとき、どちらが正しいかを議論するよりも、直ちに多くの戦略・戦術を実践し、その結果を見て、正しい戦略・戦術を1日でも早く突き止めることの方が効率的であると、私は考えています。このような私の考え方は、現時点では、めぼしい効果を客観的に示す事例は持っていないのですが、自分の意見が多く採用される組織は、活動が活性化すると考えています。

例えば、動機づけに関する、経営学の古典的研究に、有名なホーソン実験というものがあります。この実験では、作業場の照明の明るさが、どの程度、作業効率に影響を与えるかを実験しようとしたのですが、明るさを下げても、作業の効率は下がるどころか、上がっていくという、矛盾した結果が得られました。これについては、作業員たちが実験の対象となったことで、よい実験結果を出さなければいけないという意識が働いたのではないかと考えられています。すなわち、人間は、モチベーションが高まれば、どのようは方法をとるかということとはあまり関係なく、よい結果をもたらすという、すばらしい能力をもっているのではないでしょうか?

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サプライチェーンを支える人材育成

[要旨]

ニトリは強固なサプライチェーンを武器に業績を伸ばしていますが、それは、全体最適を考えることができる人材の育成を徹底しているからであり、単に、「しくみ」を導入するだけでは、事業の競争力を高めることはできません。


[本文]

家具販売店大手、ニトリを傘下に持つ、ニトリホールディングスの会長の、似鳥昭雄さんのご著書、「ニトリの働き方」を読みました。(ご参考→ )私は、ニトリといえば、強固なサプライチェーンを武器にしている会社というイメージを持っていたのですが、同書を読んで、人材育成を最も重んじているということが分かりました。もちろん、ニトリの強みはサプライチェーンであるということに変わりはないのですが、その強いサプライチェーンを構築するには、習熟度の高い人材が必要であり、同社が、人材に力を入れているからこそ、競争力の高い事業を営んでいるということが納得できました。


ニトリの人材育成は、Change、Challenge、Competition、Communicationの、4つの「C」を重視した人材育成を行っているのですが、それは、最終的には、全体最適を考えることができる人材の育成を目指すものであり、まさに、サプライチェーンの最適化に合致しているものです。そして、これは、これまで私が何度か言及していることですが、単に、戦略を実施しようとしたり、新たなシステムを導入したりするだけでは、それらは奏功しません。それらをきちんと実践できる能力を持った人材がいなければ、戦略やシステムは機能しません。


このことは容易に理解できることなのですが、経営者の方の中には、難易度が高く、時間もかかる人材育成を避け、新たな戦略を実施したり、システム導入したりするだけで、業績を高めようとする方が少なくありません。でも、それだけでは、ニトリのような、きちんと人材を育成している会社との競争に、直ちに敗れてしまいます。今回、似鳥さんのご著書を読んで、人材育成が大切であるということ、そして、その人材育成は経営者の最も重要な役割であるということを、改めて学びました。

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社会的な課題を解決するビジネス

[要旨]

ユニ・チャームは、紙おむつのリサイクルによって、事業活動を通じて社会的な課題を解決するというCSV経営を実践していますが、これからは、このようなCSV経営を採り入れることで、事業を強くすることができるようになると考えられます。


[本文]

衛生用品メーカーのユニ・チャームが、紙おむつのリサイクルシステムを開発したというニュースを見ました。紙製品のリサイクルについては、真新しいことではありませんが、紙おむつのリサイクルの場合は、単に、紙資源の再利用というだけでなく、二酸化炭素排出量の削減にもつながるそうです。

というのは、使用済みの紙おむつは水分を含んでいるので、それを燃やすには多くの燃料がかかるそうです。しかも、今後も大人用紙おむつの需要は増えていくので、処理コストの増加も大きな社会問題になると見込まれています。しかし、紙おむつのリサイクルができるようになれば、前述のとおり、紙資源の再利用と処理コストの削減が同時に実現する、一石二鳥の技術です。

そして、いま、事業活動を通じて社会的な課題を解決するという考え方、すなわち、CSV経営が注目されていますが、紙おむつのリサイクルは、まさにこれに該当すると思います。ところで、今回、ユニ・チャームの事例を引用した理由は、CSV経営のすばらしさということよりも、これからは、社会問題を解決できる会社が強い会社になるのではないかと考えたからです。

ただ、ユニ・チャームは、上場している大きな会社だから、難易度の高いCSV経営を実践できると考える経営者の方もいるかもしれません。確かに、そのような面もあるとは思いますが、中小企業でもCSV経営を実践している会社の事例はあります。例えば、マジックファイバーという油吸着材を開発したエム・テックスは、東京都大田区の中小企業です。

このマジックファイバーは、水は吸い取らず、油だけを吸い取るという特殊な吸着剤で、今年7月に、インド洋のモーリシャス沖で座礁した、日本の貨物船から流出した重油の除去に役立てられています。(ご参考→ https://bit.ly/38bzj6b )もちろん、このようなCSV経営は、一朝一夕では実現できないと思いますが、事業を強くするための方法の着眼点になることは間違いないと、私は考えています。

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つらい経験とビジネスの成功

[要旨]

ビジネスパーソンとして成功している方の中には、過去のつらい経験を糧にしてきている人は少なくありません。同様に、成功を望むビジネスパーソンの方も、自身のつらい経験に目を向けることで、強い意思を維持できる可能性があります。


[本文]

日経ビジネスに、ソフトバンクグループ社長の、孫正義さんのインタビュー記事が載っていました。孫さんは、在日韓国人の両親の2男として生まれましたが、子どものころは、孫さんが自殺したいと思うくらい、ひどい差別を受けたそうです。しかし、孫さんは、当時、名乗っていた、通名の「安本」を名乗ることをやめ、本名の「孫」を名乗ることにしたそうです。

それは、在日韓国人が差別されないようになるには、「差別反対」を叫ぶよりも、在日韓国人として成功者になることの方が、100万倍の効果があるからと考えたからだそうです。(ちなみに、孫さんは、現在は、日本に帰化しているそうです)もちろん、その後の孫さんのビジネスパーソンとしての功績は極めて著しく、差別されるどころか、多くの方の尊敬の対象となっていることは、言及するまでもありません。

ところで、孫さんは、幼いころのつらい体験をばねにして成功者になりましたし、同様に、つらい体験をばねにして成功したひとは、他にもたくさんいます。例えば、ウィキペディアによれば、米国のブッシュ(Jr)政権で、国務長官などを務めた、コンドリーザ・ライス女史は、子どもの頃、生まれ育った南部アラバマ州では、(アフリカ系アメリカ人であったために)ウールワース(かつて、米国を席捲していた小売業者)でハンバーガーを食べることができなかったものの、「教育が人種差別に対する最高の防御になる」という両親の励ましがあったおかげで、努力次第で大統領になることだって可能だということに、何の疑いも持っていなかったというスピーチをしているそうです。

そのような経験から、ライス女史は、人の倍の努力を重ねた結果、政権の中枢に入るまでに至り、ブッシュ大統領から絶大な信頼を得ていたと言われています。その一方で、これまで自分を批判してきた人を見返すために、ビジネスで成功したいと思っている人(その中には私も含まれますが)もたくさんいますが、実際に成功する人の割合は、あまり高くないと思っています。

そこで、私は、つらい経験を成功するためのきっかけにできる人と、できない人の違いは何かということを、ずっと考えてきているのですが、そのひとつは、「他人に復讐してやろうというような、ネガティブな考えを持ってビジネスに臨むことは、あまりよくない」と考えると、つらい経験を成功のきっかけにできないのではないかと考えています。

例えば、よく、「世の中の役に立つ仕事をしたい」ということを口にする人がいますが、そういう人は、ネガティブな考え方をビジネスに持ち込むべきではないと考えているのではないかと思います。このように考えることが間違っているわけではないのですが、私は、もう少し、ネガティブな考え方を持つことも「アリ」なのではないかと思っています。

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