鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

組織に所属したい欲求を活かす

[要旨]

人は、そもそも、組織に所属したいという欲求がありますが、会社に必要とされていると感じることができなければ、会社を離れたいと考えてしまいます。従業員の定着率を高めたいと考えている経営者の方は、従業員の方に、会社から必要とされていると感じてもらえるようにすることが大切です。


[本文]

経営コンサルタントの梅本泰則さんが、梅本さんのメールマガジンで、事業承継について書いていました。すなわち、ジャパネットたかたや、星野リゾートのように、円滑に事業承継が行われた会社もある一方で、ソフトバンクグループやファーストリテイリングでは、一旦、社長が交代したものの、その後、再び、創業者が社長に就いた。

後者の事例のように、一旦、バトンタッチした創業者が、再び経営者にもどってしまう理由として考えられることは、「権限」を失ってしまうことと、「居場所」がなくなってしまうため、それらを再び得ようとするからである。したがって、事業承継がなかなか進まない理由の多くは、事業を受け継ぐ側ではなくて、事業を引き渡す側にある、というものです。

私は、梅本さんの指摘は事実だと考えています。その一方で、事業を引き渡す側の決断も、それほど容易ではないとも考えています。というのは、特に、創業者にとっては、会社は自分の分身でもあり、その運営に、いままでの創業者の人生の多くを犠牲にしてきているわけですから、なかなか「権限」や「居場所」を手放したくないという気持ちも理解できます。

だからといって、事業承継が遅々としてよいのかというと、そういうわけにもいかないということも事実です。やはり、経営者は、自分の分身を、いつかは、後継者に譲る日が来るということを、覚悟しておかなければならないでしょう。そうしなければ、創業者としての功績が、「未練の強い経営者」という批判に変わってしまうこということになりかねません。

ところで、今回、梅本さんのメールマガジンを引用した理由は、事業承継がどうあるべきかを伝えようとしたからではありません。人は、組織に属したいという欲求があるということがわかる、よい事例だと考えたからです。これは、マズローの欲求5段階説の、所属と愛の欲求(社会的欲求)にあたるものといえるでしょう。前述の例では、創業者は、なかなか会社から離れられない一方で、いまは、従業員の方の定着率が低いことで頭を悩ませている経営者の方も多いと思います。

でも、人は、本来は、組織に所属したいという欲求があるわけですから、「会社に自分の居場所がある」と感じてもらうことができれば、従業員の方の定着率は改善すると思います。その具体的な方法についての言及は割愛しますが、ジャパネットたかたの創業者の高田明さんは、同社を去った後、Jリーグに加盟する、プロサッカークラブの、V・ファーレン長崎の社長に就任し、経営危機にあった同クラブの立て直しに力を発揮しました。高田さんは、自分を必要としてくれる場所を見つけたことに満足できたから、もとの居場所にもどる必要はなくなったと言えるのでしょう。

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