[要旨]
事業運営の判断には、必ずしも100%正しいということはありません。そうであれば、自らの意見も、相手の意見も、どちらも正しい可能性があるので、あえて、自分の考えとは逆の意見を取り入れることで、組織全体のモラールを高めると、そのことが、よい結果を導く大きな要因になることもあります。
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私は、特にフリーランスになってから、あえて、自分とは異なる意見を取り入れるようにしています。例えば、顧問先の戦略策定会議などでは、他の参加者の方から、私の意見と異なるものの、前向きの意見が出たときは、相当の見当違いであるという場合を除き、その意見に同意するようにしています。なぜかというと、事業運営上の判断は、事前には、100%正しい結論を導くことはできないからです。さらに、最善の判断と思われる案も、すべての面において100点のものはなく、長所と短所があります。
ですから、これからどのような戦略・戦術を行おうかということを考えたとき、私の考えが誤っていて、他の人の考えが正しいかもしれないし、両者が正しいかもしれないし、両者が謝っているかもしれません。例えば、東洋経済新報社の記事によれば、お互いに埼玉県南西部を地盤とする、スーパーマーケットのベルクとヤオコーは、店舗オペレーションに関し、ベルクは本部主導で行っているのに対し、ヤオコーは店長に大きな裁量を与えるという真逆のことを行っていますが、両社とも業績を伸ばしています。
この2社の事例のように、戦略・戦術は、真逆のことをしても、どちらも正解になることがしばしばあり、それが事業運営の面白いところであると、私は考えています。そうであれば、異なる意見が出たとき、どちらが正しいかを議論するよりも、直ちに多くの戦略・戦術を実践し、その結果を見て、正しい戦略・戦術を1日でも早く突き止めることの方が効率的であると、私は考えています。このような私の考え方は、現時点では、めぼしい効果を客観的に示す事例は持っていないのですが、自分の意見が多く採用される組織は、活動が活性化すると考えています。
例えば、動機づけに関する、経営学の古典的研究に、有名なホーソン実験というものがあります。この実験では、作業場の照明の明るさが、どの程度、作業効率に影響を与えるかを実験しようとしたのですが、明るさを下げても、作業の効率は下がるどころか、上がっていくという、矛盾した結果が得られました。これについては、作業員たちが実験の対象となったことで、よい実験結果を出さなければいけないという意識が働いたのではないかと考えられています。すなわち、人間は、モチベーションが高まれば、どのようは方法をとるかということとはあまり関係なく、よい結果をもたらすという、すばらしい能力をもっているのではないでしょうか?