鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

金融庁の権威の低下

[要旨]

金融機関の経営環境が悪化しつつある中、金融庁も改革案を出せない手詰まりの状態であり、金融機関との関係では徐々にその地位が低下しつつあることから、中小企業経営者の方は、これからは、金融庁の方針よりも、金融機関の動きに注目することが望ましいと思われます。


[本文]

記事としては、ちょっと古いのですが、7月15日の日本経済新聞社に、金融庁遠藤長官(当時)の寄稿が載っていました。(なお、現在の金融庁長官は、7月20日に就任した、氷見野良三氏です)記事の要旨は、地方銀行に関するもので、遠藤氏は、「人口減少と高齢化で、マクロ経済活動が縮小している地方経済で、この縮小の大波を打ち返すことを(地方銀行改革の目標にしてきたが、個人的な実感としては、ビジネスモデルを変化させた地銀・第二地銀はせいぜい4割であり、6割は変革を受け入れていないと感じる」と述べています。

ただ、私は、地方銀行の状況よりも、遠藤氏が、金融庁自身の反省点について言及していることについて、注目しています。「自己反省も込めて、金融庁側が抱える課題を検証してみたが、そのひとつめは、金融行政の目標設定が、長らく短視眼的だったこと、ふたつめは、金融機関の『経営』や『経営判断』への金融庁の関与が不明確だったことだ。みっつめは、金融庁と金融機関のコミュニケーションが、検査結果を指摘する一方通行であったことであり、その結果、両者の間で信頼関係が醸成されず、お互いの腹を探り合う後ろきのコミュニケーションだった」というものです。

私は、これまでの金融庁の方針には不満を感じていましたが、なかなか自らの非を認めようとしない行政機関が、それを認めたことそのものに驚くとともに、その姿勢は評価できると感じています。それと同時に、これからの金融機関の改革は、行政機関主導では難しくなっているということの現れでもあると思っています。これは、非公式なところからきこえてくるのですが、金融機関の現場を知らない金融庁の職員に対して、金融機関側が現在の状況を話しても共鳴してもらえないので、あまり頼ろうとはしなくなりつつあるというものです。

さらに、一昨年までは、金融庁は、「スルガ銀行のように独自色を出せば、高収益体質になることができる」と主張することができましたが、金融庁地方銀行改革のよりどころとしていたスルガ銀行は、実は、不正融資をしていたことがわかり、現在の金融庁は、新たなビジネスモデルを示すことができない手詰まりの状況になっています。また、昨年、金融検査マニュアルを廃止しとことも、その表れのひとつでしょう。したがって、これからは、金融庁と金融機関の関係は、徐々に、金融庁の立場が低くなっていくでしょう。よって、融資を受けている中小企業経営者の方は、これからは、金融庁よりも、金融機関の動きに注目していくことが望ましいと思います。

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銀行の無店舗化

[要旨]

銀行は、営業店の機能を縮小し、将来的には無店舗化を進めていることから、融資を利用している中小企業は、これからは、銀行からの支持を強めるためのアピールを強めていく必要性が高まっています。


[本文]

先日、日本経済新聞に、茨城県水戸市に本店のある地方銀行常陽銀行が、「機能別に店舗を再構築する」という記事がありました。銀行店舗に関するこのような傾向は、もう20年くらい前から行われています。そして、記事としては、「店舗の再構築」という内容になっていますが、最終的な目標は、銀行の店舗をなくすことです。

銀行の業務は、預金、融資、為替(決済業務)、付随業務(クレジットカード、投資信託など)ですが、いずれの業務も利益を得にくくなってきています。そして、物理的な店舗とセットで考えれば、法人向け融資、住宅ローン業務、富裕者層向け資産運用を除けば、採算はほとんど得られない状況です。したがって、現在は、すべての業務を行う「フルバンキング店舗」を減らしているということのようです。

このような状況を踏まえて、今後、中小企業がどのような影響を受けるかというと、恐らく、融資業務については、民間金融機関も、現在の日本政策金融公庫のように、融資受付専門部署でのみ融資を受け付けるというようになると考えられます。そうすると、現在は、預金を預け入れるために銀行に行ったついでに、融資担当者にも業況を伝えるというようなことができなくなり、融資を受けている側から意識して自社の状況などを伝えに行く必要性が、高まっていくと思います。

現在、上場会社は、自社に対する支持を得るために、投資家に向けてIR(Investor Relations、投資家向け広報活動)を積極的に行っています。中小企業にとっては、投資家ではありませんが、自社に対する重要な資金供給者である銀行に対して、自社のことを積極的にアピールすることが、銀行の店舗再構築が進むにしたがって重要になりつつあると、私は考えています。

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貧乏になる人の特徴

[要旨]

事業がうまくいかない会社の経営者の特徴として、理想を求めすぎて顧客を無視してしまう、誘惑に我慢できなかったり嫌なことを避けたりしてしまう、金銭は嫌なことをしたことの対価と考えてしまうというものがあります。


[本文]

先日、水野敬也さんの小説、「夢をかなえるゾウ2」を読みました。その中で、貧乏神の金無幸子が、主人公で芸人の西野勤太郎に話した、「貧乏になる人の特徴」がとても印象に残ったので、ここでご紹介したいと思います。ひとつめは、ドリーム貧乏で、大きな夢を持っているものの、その夢にとらわれるあまり、お客さんのことがぜんぜん見えていない人、お客さんから望まれていないことを頑なに続けている人だそうです。ちなみに、この主人公の西野は、これに該当するそうです。

ふたつめは、ガネーシャ貧乏で、目の前にある誘惑に勝てなかったり、嫌な仕事から逃げてしまったりする人だそうです。ちなみに、ガネーシャとは、もちろん、主人公の西野にアドバイスをするゾウの神さまのことで、彼は、すぐにたばこを吸ったり、お菓子を食べたり、目の前にある誘惑に負けてしまうので、誘惑に弱い人代表ということで、ガネーシャ貧乏という表現をしたのでしょう。みっつめは、お駄賃貧乏で、子どものころに、周りの大人から、お手伝いをしたらお駄賃をあげるといわれた経験があることから、お金は嫌なことをしたときにもらえるものと考えている人のことだそうです。

以上が金無さんのいう、「貧乏になる人の特徴」ですが、これは、「業績がよくない会社の経営者の特徴」にも置き換えることができると思います。そして、そういう私自身も、この3つのすべてにあてはまっていると考えています。でも、フリーランスになってから、自分自身の業績がよくならない原因を考えていくと、金無さんが指摘しているような、3つ改善を要する点に自分自身でも気づき、少しずつ改善してきました。

ちなみに、私が銀行職員時代から、コンサルタントになった現在までを通して感じることは、業績がうまくいっていない会社経営者には、ドリーム貧乏になっている人が多いと感じています。もちろん、会社を経営するにあたって、ドリームは必要ですが、顧客が見えなくなってしまうほど夢にのめりこんでしまうと、夢そのものが実現できなくなってしまうので、ある程度のバランスが必要でしょう。もし、読者のみなさんの事業がうまくいっていない場合は、前述の3つの「貧乏になる人の特徴」を参考に、改善点を探すための手がかりにしていただければと思います。

 

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内は愚にして外は賢なり

[要旨]

人は、他人の行いの悪い面には気づきやすいものの、無意識に自分自身も同様のことをしていることがあるので、特に、部下たちを導く立場にある経営者の方は、そのような人間の性質を意識して、部下に臨むことを自分自身が率先垂範するようにしながら経営に臨むことが大切です。


[本文]

浄土真宗本願寺派僧侶の江田智昭さんの、ダイヤモンドオンラインへの寄稿を読みました。要旨は、神奈川県のドラッグストアの店員の方が、「コロナよりも怖いのは人間だった」とTwitterへ投稿し、大きな反響があった。この投稿については、多くの人が傍若無人な振る舞いをする「他人」の姿を瞬時にイメージし、自分も「人間」のはずなのに、無意識に自分自身をそこから除外し、「コロナよりも怖いのは他人だった」と心の中ですり替えてしまう。

ところで、親鸞聖人は、「愚禿(ぐとく、親鸞聖人のこと)が心は、内は愚にして外は賢なり」(私の心の内面は愚かでありながら、外見は賢く振る舞っている)ということばを残しており、親鸞聖人自身も、心の中では愚者の面があるという自覚があったようだ。したがって、現在は、インターネットなどで非常に多くの情報を蓄えることができるようになったが、知識を増やして外見を賢そうにすることよりも、自分自身の心の内面の愚かさに気づくことが大切だ、というものです。

そこで、この記事を読んで、私が最初にすべきことは、私自身の内面の愚かさを自覚することだと、あらためて認識しました。そして、自分が他人に望むことは、まず、自分自身が実践しなければならない、すなわち、率先垂範していかなければならないと思います。ところで、いま、テレビドラマの「半沢直樹」が高い人気を得ていますが、その理由は私が言及するまでもなく、勧善懲悪のストーリーだからでしょう。

私も、かつて、銀行で働いていたこともあり、強い関心をもってこのドラマをみています。正直なところ、銀行に務めていた当時は、半沢直樹のような上司がいれば、倍返しをしてもらいたいと思うような相手がいました。その一方で、自分自身も、当時の部下などに対して、「倍返ししてやりたい」と思われるようなことをしていなかったかと、省みてもいます。テレビドラマでは、分かりやすくするために、登場人物の善悪が明確に分かれていますが、現実の社会では、同じ人が、上司から理不尽を強いられることもあるし、部下に理不尽を強いていることもあると思います。

よく、「風通しの良い企業風土」を推奨されることがありますが、それを真に実現させるためには、親鸞聖人の「内は愚にして外は賢なり」の考え方を、すべての人が意識する必要があると思います。前述の親鸞聖人の教えからは、他にも多くの学ぶべきことが見いだされると思いますが、今回は、私の過去の経験から、ひとつだけ例を挙げてみました。

 

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電車で中ほどに進まない人

[要旨]

最近は、電車で中ほどに進まない人が増えていますが、それは、育った環境の変化によるもので、従業員の中にも、そのような気が利かない人が増えていることに対しては、会社経営者の方にも、人材育成能力が問われつつあります。


[本文]

ランスタッドEAP総研所長の川西由美子さんへのインタビュー記事が、日経ビジネスに掲載されていました。インタビューの内容は、川西さんが、通勤時の混雑した電車で、入り口付近にとどまり、中ほどまで進まない人の心理について問われ、その理由として、(1)気が利かない、(2)周辺環境情報が十分に把握できない、(3)周囲に働きかけて「奥に進む技術」がないの、3つを挙げておられました。

そして、そのような人がいる原因については、幼少期の親や近所の大人たちとの経験が影響しているからで、職場で上司が親の代わりになって働きかけたり、組織全体で気を利かせることの大切さを学ぶムードを作ったりすると改善が見込まれると、川西さんはお話しておられます。

ところで、電車の中ほどまで進む人、すなわち、気が利いて、周辺情報が把握でき、周囲に働きかける能力を持っている人が職場に多いと、会社の業績も高くなることは間違いないと、私はこの記事を読んで感じましたし、私以外の人も同様に感じることでしょう。その一方で、電車の中まで進まない人が、かつてより増えているということは、それがよいか悪いかは別として、現実には職場ではそういう人の割合も多いということになると思います。

したがって、会社経営者、管理者の方は、そのような事実を踏まえて、川西さんのご指摘しておられるように、「組織全体で気を利かせることの大切さを学ぶムード」を作ることの重要性が増しているということだと思います。今回は、たまたま、電車の中まで進まない人を例に挙げましたが、令和時代は、ますます、組織の能力、個人の能力が業績を左右する要因としての比重が高まっているので、経営者、管理者の方も、組織の能力や人材の能力を高めるスキルが問われているということを、川西さんのインタビュー記事を読んで、あらためて感じました。

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家計簿をつける効果

[要旨]

経営者の方が、「会計情報はだいたい把握している」という慢心を持っていると、事業運営上の正確な判断ができないので、経営者の方は、財務情報に強い関心を持ち、常に自社の財務状況を正確に把握することが大切です。


[本文]

読者のみなさんは、家計簿をつけたことがあるでしょうか?私も、かつて、家計簿をつけていたときがありました。家計簿をつける効果のひとつは、自分がイメージしている支出の内訳と、実際の支出の内訳に、ずれがあるというものがあります。例えば、「ひと月の外食費(飲み代)は、もっと少ないと思っていたのに、実際はこんなに外食していたのか」というような感じです。

したがって、家計簿をつけた方が、より的確に、支出の無駄を減らすことができるようになります。また、家計簿をつけると、これも当然のことですが、節約しようという意識が高まります。普段の生活の中で、「この買い物は無駄な買い物かもしれない」と感じたとき、家計簿をつけていると、そのことが後になってさらに明確になってしまうと感じるので、無駄な買い物を抑えようとすることができます。

と、ここまで当然すぎることばかり書いてきたのですが、このような家計簿を活用したお金の節約法は、会社の財務管理にも当てはまります。もちろん、会社は、法律上、会計取引を記録する義務があるので、それを怠っている会社はないと思います。でも、税務申告のときに、税理士の方から届けられた決算書を、事後的に見ているとか、融資を受けるときに、銀行から説明を求められて、ようやく自社の財務状況を調べてみるというように、受動的にしか、自社の財務について見ていない経営者の方も少なくありません。

これは、これまで私が繰り返してお伝えしていることですが、毎月、自社の収支状況を確認し、事業の改善に活用していなければ、成り行きで事業活動をしている状態ということになってしまいます。ところが、家計簿をつけていない人が考えがちな、「わざわざ、家計簿をつけなくても、自分はだいだいお金の使い方はわかっている」というような慢心を、会社経営者の方も持っていると、誤った認識で事業運営上の判断をしたり、無駄な支出をしていたりして、業況が悪化したり、業績がなかなか向上しなかったりします。

もし、本当に、自社の事業をよくしたいと考えている経営者の方は、自社の財務状況への強い関心を持って、事業に臨むと思います。業績がなかなかよくならないというとき、その原因はひとつだけではありませんが、そのうちの大きなもののひとつは、経営者の方がどれくらい自社の財務に関心を持っているかということだと思います。

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資本性劣後ローンとコベナンツ

[要旨]

金額や金利などの面で有利な条件で利用できる融資契約のシンジケートローンなどでは、コベナンツによって融資条件が明確にされますが、新型コロナウイルス対策資本性劣後ローンでは、コベナンツほどの条件は課されないものの、毎期、業績を報告することが条件となっています。


[本文]

融資契約のひとつに、コベナンツ(財務制限条項)つき融資というものがあります。このコベナンツつき融資は、複数の銀行が集まり、ひとつの会社に対して融資を行うシンジケートローン(協調融資)のときに利用されたりします。シンジケートローンは、大企業などが、10億円以上の多額の資金調達をするときに契約されますが、銀行もリスクを分散するなどの理由から、複数の銀行で融資を行います。

そこで、通常の銀行融資のように、1対1で契約を行うときと異なり、融資相手の会社の状況を、シンジケートローンに参加した複数の銀行が、適時に確認(モニタリング)することなどを目的として、特別の条件をつけます。それが、コベナンツであり、その具体的な内容は、毎月、業況を報告してもらう、目標とする財務指標(営業利益率、自己資本比率、有利子負債比率など)を達成する、資産などを無断で処分しないなどといった義務を、融資を受けた会社が負います。

特に、もし、目標とする財務指標を達成できなかったときなど、コベナンツで契約した義務を、融資を受けた会社が達成できなかったときは、融資利率を引き上げたり、場合によっては、直ちに融資全額を返済する義務を負うといったペナルティが課されます。ここまで書いてきた内容を見ると、コベナンツつき融資は、融資を受ける会社に不利なように感じられますが、逆に、融資条件を明確にすることで、金額、利率、担保条件などで、一般の融資より有利な条件で利用できます。端的に述べれば、銀行との約束を明確にすつことで、多額の融資を低利で受けることができるようにするということです。

ところで、8月3日から、日本政策金融公庫で新型コロナウイルス感染症対策挑戦支援資本強化特別貸付(新型コロナ対策資本性劣後ローン)の取扱が始まりました。この資本性劣後ローンは、7,200万円(国民生活事業の場合)を、最長20年後に一括返済すればよく、かつ、融資額は、自己資本と同等とみなされるため、融資を受ける側にとっては、とても有利な融資です。その一方で、資本性劣後ローンを受ける条件には、「毎期の経営状況の報告等を含む特約を締結」するというものがあります。

この条件は、資本性劣後ローンの取扱が始まったばかりなので、詳しいことはまだわからないのですが、私が日本政策金融公庫に問い合わせたところ、コベナンツではないということです。したがって、目標とする利益を達成するというような目標を課されることはありませんが、「毎期の経営状況の報告」の時に、コベナンツに準じて、もし、財務状況が悪化したときは、公庫から改善の要請をされるものと思います。今回は、有利な条件で融資を受けるには、コベナンツのような条件がセットになるということを説明しました。

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