鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

借金するくらいなら店を閉める

[要旨]

事業活動では、積極的に融資を利用すべきですが、問題の先送りのために融資を利用すると、事業の改善がさらに難しくなるので、業績の改善が見られない場合の撤退戦略も考慮に入れる必要があります。


[本文]

経営コンサルタントの板坂裕次郎さんが、板坂さんのブログに、2つの和食店を経営している、37歳の経営者の方について書いておられました。その方は、3年後に3つ目の店を持ちたいと考えているが、借金はせずに店を出したい、借金しなければならないのであれば、店を閉めると、板坂さんにお話されたそうです。

これに対し、板坂さんは、借金は、借金したいからするのではなく、借金以外にどうすることもできなくて、急場をしのぐためにするものだ。借金しないことにこだわり過ぎず、実際に借金をしてみて、金のありがたみを学ぶことも必要だ、と述べておられます。私は、板坂さんのご指摘の通り、融資を受けることを、必ずしも否定的に考える必要はないと思いますし、また、融資を受けないことにこだわり過ぎず、実際に融資を受けてみて、融資を受けることのメリットも学ぶべきと思います。

その一方で、私はこれまでに、融資に依存し過ぎている人もたくさん見てきました。事業運営で融資を受けることは必要ではあるものの、その場しのぎの融資は、結果的に問題の先送りであって、さらに、改善を難しくしてしまいます。したがって、融資は積極的に活用すべきであるものの、例えば、「5年間で赤字から抜け出せなければ廃業する」、すなわち、撤退戦略も準備しておく必要があると思います。

融資は、本来は、前向きな事業活動のために利用するものであって、決断できない経営者が問題の先送りのために利用してしまうと、その結果、不幸な結末を迎え、「借金をするくらいなら、店を閉める」と考える若者が増えることになってしまうと思います。

 

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鄙事多能

[要旨]

事業運営において、経営者の方が、事業現場の状況を把握せず、それが方針決定に反映されないために、業績を下げることもあるので、経営者の方は、巨視的な視点と、微視的な視点の両方を、バランスよく持つことが大切です。


[本文]

イエローハットの創業者の鍵山秀三郎さんのメールマガジンに、「鄙事多能(ひじたのう)」について書かれていました。「『鄙事』とは、取るに足らない些細なこと。『多能』とは、器用の意。子供のころ貧しく、どんな仕事でもこなさなければならなかった孔子が遺した言葉です。人生は、難しいことばかりを学ぶことではありません。身辺の雑事といわれるようなことを、きちんと処理できることが何より大事です」これは、ドイルの建築家のミース・ファン・デル・ローエ座右の銘としていたと言われている、「神は細部に宿る」と同じことを示唆していることばだと思います。

ちなみに、私は、「窓口天皇」ということばをきいたことがあります。これは、役所の仕事の実態を指すことばのようで、役所では、キャリアの人が仕事を仕切っているのではなく、実際に、窓口で市民と接している人の方が、多くの実務上の知識を持っているので、その人たちなしには仕事はまわらない、すなわち、実際に仕事を仕切っているのは窓口にいる人なので、その人たちは「天皇」のような存在ということのようです。話を戻すと、事業運営は、全体的な方針を決定する経営者や管理者の役割も大切ですが、一方で、事業の現場で実践されている「鄙事」も大切です。どちらかが大切で、もう一方は大切ではないということはありませんが、どちらかに偏るといことは問題だと思います。

その偏った例は、不正契約が行われた、かんぽ生命の経営体制の例だと思います。令和元年9月30日に、かんぽ生命を含む日本郵政グループの持株会社である、日本郵政長門社長(当時)は、かんぽ生命の不正契約に関する記者会見で、記者からの同社取締役会の機能強化に関する質問に対して、次のように回答しています。「(日本郵政の)取締役会では、(取締役総数15名の6割を占める、9名の社外取締役から)厳しい意見が連発し、経営陣も納得させられる議論や、叱責されるような議論も多々あり、活発な取締役会が行われていると自負しています。

しかし、今回の問題に関しては、良し悪しは別として、持株会社に全く情報が上がりませんでした。6月24日の報道を発端とし、私どもの調査で不適切な疑いのある案件が2万件を超えることが発覚したにもかかわらず、持株会社の取締役会において、本件について初めて議論されたのは7月末です。(このような状況を踏まえ)情報がしっかり持株会社に上がり、子会社と共有できる体制を構築することで、取締役会を活性化していきたいと思っております」

かんぽ生命の件は、極端な例であるし、また、日本郵政グループが大きな組織であるということを鑑みれば、例外と感じる方も多いと思います。もちろん、私もそう思うのですが、同社のような状態に至らなくても、経営者が「鄙事」を軽視しているために、それが会社の業績を下げてしまう原因になっているという例は、しばしば見られると思います。私は、経営者の方は、視野を特定の部分にだけあてることなく、巨視的な視点と、微視的な視点の両方を、バランスよく持つことが大切だと思います。

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自信過剰バイアス

[要旨]

劣等感を埋めたり隠したりするために、人は自信過剰バイアスを持ってしまいがちですが、それを持ったままでは、事業運営上の判断を誤ってしまうので、適宜、自社の業績を確認しながら、自信過剰バイアスに左右されない運営体制をつくることが必要です。


[本文]

証券業界の用語に、自信過剰バイアスというものがあります。その意味は、「自らの知識や能力を過大に評価した過剰な自信から生じるバイアス」(野村証券のホームページより)という意味です。ちなみに、「バイアス」とは、ここでは、「思い込み」と置き換えることができるでしょう。

この自信過剰バイアスは、証券投資以外にも、起業家にもあてはまるといわれることがあり、私自身にも心あたりがあります。私自身も、自分が開業する前の期待と、実際に開業したあとの現実とのギャップを、強く感しています。また、私以外の起業家の方の中にも、自信過剰バイアスがある方は少なくないと感じています。

これは、私の想像であり、きちんとした根拠はありませんが、人は、どうしても劣等感を持ってしまうので、自らの能力が高いと考えることで、その劣等感を隠したり、不安を取り除こうとするのだと思います。したがって、一部の人を除けば、自信過剰バイアスを持つことは避けることができないと思います。そこで、自信過剰バイアスへは、どう対処すればよいのかというと、私は、冷静に自分の実力に向き合うことだと思います。

その手法は、ひとつだけではありませんが、私がお薦めするものは、日報コンサルティングを受けることだと思います。日報コンサルティングを受けること以外にも、顧問税理士や取引銀行に、1か月ごとに、自社の業績を確認してもらうことから始めるだけでも、自信過剰バイアスによる誤った判断を防ぐことができるでしょう。しかし、自分を過信し過ぎて、自社の業績を確認することさえしないとすれば、上から目線で恐縮ですが、私は、そのような方は、経営者としてのセンスに欠けていると考えます。

ちなみに、起業家の中には自信過剰バイアスがある人が少なくないということを逆手にとって、そのような人たちの自尊心をくすぐるような、高額セミナーを開いたり、高額教材を販売する人たちも少なくありません。自信過剰バイアスが強すぎると、そのような心ない人にずっと依存してしまい、結果として、なかなか成功までたどりつくことができなくなったり、成功しないまま事業を閉じることになりかねませんので、注意が必要です。

 

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手っ取り早い集客方法

[要旨]

事業への新規参入者が多くなった現在は、手っ取り早い集客方法は存在しませんが、集客方法がないということはなく、手間や費用がかかってでも実践すれば集客は可能なので、それを実践できるかどうかということが、事業の成否の鍵となります。


[本文]

先日、一般社団法人全国コーチング普及協会代表理事で、ビジネスコーチの田中直子さんのメールマガジンを読みました。メールマガジンの要旨は、田中さんがプロコーチの育成をしているとき、手っ取り早い集客方法をきかれることがある。結論としては、手っ取り早い集客方法はない。例えば、ブログで集客するという方法があるが、ブログはすぐに始められるものの、アメーバブログには、すでに、6,500万人の会員がいるように、多くの人がブログを利用しているので、ブログで集客できるようになるには、それなりの努力や手間がかかる。

したがって、「手っ取り早い集客方法」を求めることそのものが残念な考え方になっている。そこで、集客するには、あえて、手っ取り早くない方法、すなわち、同業者が面倒と感じることや、ハードルが高いと感じることをやってみることも手だ。例えば、田中さんは、多額の広告費を払って集客をしているが、単に広告を出せばよいということではなく、緻密な方法をとらないと、広告の効果は得ることが難しい。

すなわち、現在は、効果のある集客をするためには、差別化された商品を作り、潜在的な顧客に新しい価値観を提供するための発信をするしかなく、「手っ取り早い集客方法をあきらめる」ことが、結果的に「最も手っ取り早い集客方法」になる、というものです。この田中さんのご指摘は、「石の上にも三年」ということであり、私もその通りだと思います。

そして、田中さんのご指摘から学ぶことはたくさんあると思いますが、私は、つぎの2つが重要だと思っています。ひとつは、現在は、多くの人がビジネスに参入できる時代になっているので、単に、起業さえすれば、それが直ちに成功することにはならないということです。これは当然のことではありますが、しかしながら、田中さんに、「手っ取り早い集客方法」をきいてくる、「残念な考え方」を持っている人はいまでもいます。

もし、「起業≠成功」と分かっていれば、「残念な考え方」をすることはないでしょう。起業するからには、短絡的に起業することなく、成功するための道筋までを考えて起業しなければなりません。ふたつめは、だからといって、成功がとても難しいことかというと、決してそうではないということです。田中さんも、「差別化された商品を作り、潜在的な顧客に新しい価値観を提供するための発信をする」ということをすれば、成功できると述べておられます。

すなわち、単に起業しただけでは成功することはできないことも事実ですが、成功するための方法は明らかになっています。したがって、簡単ではないことも事実ですが、その方法を実践しさえすれば、高い確率で成功でるようになります。私も、経験的に、業績のよい会社は、PDCAを実践しているということをつかんでいますが、業績のよくない会社に、PDCAを実践しましょうと提案しても、なかなか実践しません。すなわち、成功しない会社の成功しない要因は、成功が難しいというよりも、成功する方法を実践しているかどうかということだと、私は考えています。

 

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納豆理論

[要旨]

ビジネスパーソンがステップアップするには、現在、交流のある人たちとの関係を断ち切る必要がありますが、その決断ができないために、ステップアップできないでいることもあります。


[本文]

経営コンサルタントの石原明さんが、石原さんの制作しているポッドキャスト番組で、納豆理論についてお話しておられました。納豆理論とは、納豆の容器から、納豆をひとつぶ取り出そうとすると、糸をひいていて、なかなかそれを取り出すことができない。

それと同じように、ビジネスパーソンがステップアップするには、現在、お付き合いのある人たちとのしがらみ(納豆の糸)を切らないと、いつまでも、いまのステージから抜け出せない、というものです。このしがらみ(納豆の糸)は、周りの人がなかなか切ろうとしないこともありますが、ステップアップを目指す人自身も、頭ではわかっていても、なかなか切ることができないこともあるようです。

そういう私も、そのひとりです。私は、しがらみのひとつである、出身地で仕事を続けるということを、あえて続けているので、あまり事業を拡大できないでいます。ただ、これは、私の選択なので、自ら決めたことによって起きた結果には、不満を言うことはしません。

一方、かつて、私と交流があったものの、いまは、急速に事業を拡大している人の多くは、私から離れていっています。それは、まさに、納豆理論の通りと言えるでしょう。その一方で、成功者になりたいと考えつつも、ずっとステップアップできないでいる人もいます。納豆理論で言えば、納豆の糸を切る決断ができない人(私もここに含まれます)なのでしょう。

繰り返しになりますが、ビジネスパーソンとしてステップアップするには、人との付き合い方も変えなければなりません。でも、人は、当然ながら、人間的な側面もあり、その性質が現状を維持しようとするために(納豆の糸を切ることができないでいるために)、ステップアップを妨げていることもあります。もちろん、付き合う人を変えずに、事業を続けるということが、直ちに問題になるとは限りません。

ただ、現在の事業の成果に満足していないとしたら、そのビジネスパーソンの方は、現在、交流のある人から足を引っ張られていたり、その人たちとの付き合いを迷いながらも断ち切れないでいたりする可能性があります。要は、「二兎を追う者は一兎をも得ず」ということだと思います。やはり、成功者になるには、決断力が求められるということなのでしょう。

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給料はお客さまからいただいている?

[要旨]

ビジネスにおいて顧客が大切であるということを説明するために、「給料はお客さまからいただいている」と説明されることがありますが、このことばは、必ずしも正確とはいえません。


[本文]

前回は、「顧客第一」について注意が必要と述べたのですが、今回は、これのほかに注意がいるのではないかと、私が考えていることばである、「給料はお客さまからいただいている」について述べたいと思います。私が、「給料はお客さまからいただいている」ということばを初めて聞いたのは、私が大学生のときでした。

私が就職活動をしていて、ある、百貨店の説明会に参加したときに、同社の営業部長さんが、「弊社は、『給料はお客さまからいただいている』という考え方で仕事に臨んでいます」とお話されておられました。当時(いまでも?)、生意気だった私は、それを聞いて、「給料というのは、労働の対価として会社から受け取るものであり、お客さまからいただくものではない」と考えていました。

でも、その後、いくつかの別の会社の説明会に参加したときも、「給料はお客さまからいただいている」ということばがきかれました。それと同時に、なぜ、ビジネスの現場で、そのことばが使われているのかということを、理解するようになってきました。その理由とは、過去の新入社員の中には、会社にお得意先さまが訪れても、あいさつをしなかったり、お得意さまが要件のある従業員に取り次ぎをしないなど、顧客に関心を持たない人が少なくなかったということがあったそうです。

そこで、そのような新入社員には、ビジネスにおいて顧客はとても大切だということを理解してもらうために、「給料はお客さまからいただいている」ということばで、それを伝えるようになったということのようです。確かに、顧客は大切ということを理解できていない従業員には、そのように伝えることは効果はあると思います。でも、やはり、「給料はお客さまからいただいている」という言い回しは、私は、正確であると思っています。

なぜなら、従業員は、事業において、主体的な存在ではないからです。この「主体的な存在」ということばは、分かりにくいことばですが、株式会社での最終的な意思決定は株主が行い、業務的な意思決定は、株主から委任を受けた取締役が行っています。そして、会社の事業を遂行するために、会社は従業員を雇って働いてもらい、その労働への対価として給料を支払っています。

このようなことからもわかる通り、従業員は事業には携わってはいるものの、あくまで間接的に参加している存在なので、「主体的な存在」ではなく、「客体的な存在」なのです。そこで、従業員の給料の最終的な源泉は、顧客が会社に対して支払う商品の代金なのかもしれませんが、そうはいっても、商品の代金は、いったん、事業の当事者である会社が受け取り、その中から、雇用契約に基づいて、会社が従業員へ給料を支払います。

このことを別の例で説明すると、仮に、会社の業績が赤字になっても、従業員の給料は、そのことをもって直ちに下がることもないし、逆に、業績がよくなっても、そのことをもって直ちに上がることはありません。なぜなら、業績が下がった時の責任はや、業績が上がったときの恩恵は、まず、株主が被るのであり、直接的に従業員には回ってはきません。このような理由から、私は、「給料はお客さまからいただいている」という表現は不正確であると考えています。

とはいえ、ここまで書いてきたことを、実際に、ビジネスの場で考える必要があることは少ないと思います。ですから、顧客は大切であるということを伝えるには、「給料はお客さまからいただいている」と説明することは、ほとんど問題ないでしょう。ただ、できれば、そのような説明がしなくてもよい状態になることが望ましいと、私は考えています。

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顧客第一とはカスタマーオリエンテッド

[要旨]

本当の意味での顧客第一とは、単に、顧客を最優先することではなく、顧客を重視する事業活動を行い、その結果として、自社の利益を得ることですので、従業員などに伝えるときには注意が必要です。


[本文]

事業方針として、「顧客第一」をかかげている会社をしばしばみかけます。そのことに問題はないのですが、「顧客第一」を誤解している方も少なくないようです。「顧客第一」を方針と決めた経営者としては、顧客を重視して事業を遂行して欲しいと考えているのでしょう。

でも、従業員の中には、「顧客第一」を、「顧客最優先」と誤って理解し、顧客の言いなりになってしまうこともあります。その結果、そのような従業員は、採算の得られない取引条件(価格の引き下げや、過剰なサービス)で取引をしてしまい、会社に損害を与えてしまいます。しかし、本来の「顧客第一」は、前述のとおり、顧客を重視した事業活動を遂行し、その結果、自社の利益を得ることです。

顧客は重視する対象であっても、最終的には自社の利益につなげることが、事業活動の目的です。このような考え方は、カスタマーオリエンテッドと言います。ですから、経営者の方が「顧客第一」に言及するときは、カスタマーオリエンテッドについても説明し、単に、顧客が満足すればよいのではなく、その結果、自社の利益が得られなければならないということを、従業員にも理解してもらわなければなりません。

また、例としては少ないですが、業況の改善を要する会社の経営者が、抜本的な改善作を打ち出すことができず、苦し紛れに「顧客第一」を方針としてかかげることがあります。このような会社は、単に、顧客に従順になるしか打ち手はないということなのでしょう。そのような会社は、顧客の過剰な要求が続いて従業員が疲弊し、早晩、事業を継続できなくなってしまいます。

私は、「顧客第一」という言葉自体はよい言葉だと思うのですが、誤って理解されることが多いので、十分に注意していただきたいと考えています。ちなみに、黎明期の京セラが、巨大会社のIBMから製品を受注したというエピソードが、真の「顧客第一」のよい事例であると私は考えていますので、よろしければご参照ください。→ https://bit.ly/3b6pG8n

 

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