鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

給料はお客さまからいただいている?

[要旨]

ビジネスにおいて顧客が大切であるということを説明するために、「給料はお客さまからいただいている」と説明されることがありますが、このことばは、必ずしも正確とはいえません。


[本文]

前回は、「顧客第一」について注意が必要と述べたのですが、今回は、これのほかに注意がいるのではないかと、私が考えていることばである、「給料はお客さまからいただいている」について述べたいと思います。私が、「給料はお客さまからいただいている」ということばを初めて聞いたのは、私が大学生のときでした。

私が就職活動をしていて、ある、百貨店の説明会に参加したときに、同社の営業部長さんが、「弊社は、『給料はお客さまからいただいている』という考え方で仕事に臨んでいます」とお話されておられました。当時(いまでも?)、生意気だった私は、それを聞いて、「給料というのは、労働の対価として会社から受け取るものであり、お客さまからいただくものではない」と考えていました。

でも、その後、いくつかの別の会社の説明会に参加したときも、「給料はお客さまからいただいている」ということばがきかれました。それと同時に、なぜ、ビジネスの現場で、そのことばが使われているのかということを、理解するようになってきました。その理由とは、過去の新入社員の中には、会社にお得意先さまが訪れても、あいさつをしなかったり、お得意さまが要件のある従業員に取り次ぎをしないなど、顧客に関心を持たない人が少なくなかったということがあったそうです。

そこで、そのような新入社員には、ビジネスにおいて顧客はとても大切だということを理解してもらうために、「給料はお客さまからいただいている」ということばで、それを伝えるようになったということのようです。確かに、顧客は大切ということを理解できていない従業員には、そのように伝えることは効果はあると思います。でも、やはり、「給料はお客さまからいただいている」という言い回しは、私は、正確であると思っています。

なぜなら、従業員は、事業において、主体的な存在ではないからです。この「主体的な存在」ということばは、分かりにくいことばですが、株式会社での最終的な意思決定は株主が行い、業務的な意思決定は、株主から委任を受けた取締役が行っています。そして、会社の事業を遂行するために、会社は従業員を雇って働いてもらい、その労働への対価として給料を支払っています。

このようなことからもわかる通り、従業員は事業には携わってはいるものの、あくまで間接的に参加している存在なので、「主体的な存在」ではなく、「客体的な存在」なのです。そこで、従業員の給料の最終的な源泉は、顧客が会社に対して支払う商品の代金なのかもしれませんが、そうはいっても、商品の代金は、いったん、事業の当事者である会社が受け取り、その中から、雇用契約に基づいて、会社が従業員へ給料を支払います。

このことを別の例で説明すると、仮に、会社の業績が赤字になっても、従業員の給料は、そのことをもって直ちに下がることもないし、逆に、業績がよくなっても、そのことをもって直ちに上がることはありません。なぜなら、業績が下がった時の責任はや、業績が上がったときの恩恵は、まず、株主が被るのであり、直接的に従業員には回ってはきません。このような理由から、私は、「給料はお客さまからいただいている」という表現は不正確であると考えています。

とはいえ、ここまで書いてきたことを、実際に、ビジネスの場で考える必要があることは少ないと思います。ですから、顧客は大切であるということを伝えるには、「給料はお客さまからいただいている」と説明することは、ほとんど問題ないでしょう。ただ、できれば、そのような説明がしなくてもよい状態になることが望ましいと、私は考えています。

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