鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

全方向の日報で組織の風通しをよくする

[要旨]

大阪市の三和建設では、社内の日報システムを活用し、部下、上司、社長のすべての日報が、入力され次第、全方向で閲覧できるようにすることで、組織の風通しをよくすることを実現しています。これにより、不都合な情報が握りつぶされるという懸念がなくなり、従業員の方に安心感を持ってもらうことが可能になっているそうです。


[本文]

前回に引き続き、今回も、三和建設社長の森本尚孝さんのご著書、「人に困らない経営-すごい中小建設会社の理念改革-」を読んで私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、三和建設では、「決裁基準に関する方針」を明文化した上で、従業員たちに権限委譲を行なっていますが、これは、もし、権限を不明確にしておくと、部下が行った判断を、後から上司が「勝手なことをするな」と批判することが起きてしまい、部下のモチベーションや組織への信頼が下がることになるので、それを防ぐために行っているということについて説明しました。

これに続いて、森本さんは、社内日報システムを活用し、組織の風通しをよくしているということについて述べておられます。「一般的に、日報というものは、組織で働く者が上司に対して、一方的に提出するものである。メンバーから課長、部長、役員、そして社長へと、日報が順次送達されていく。部長の日報をその下の課長や組織メンバーが閲覧する機会などは、通常、ないであろう。三和建設では、組織の風通しをよくするために、独自の日報システムを採用し、「SODA(Sanwa Opereation System for Sales & Dairy Reports Archive の略)」と名付けて運用している。

このSODAは、既存の規格品ではなく、三和建設が独自に開発して運用しているもので、関心を持たれる方も多く、雑誌でも取り上げていただいた。SODAの最大の特徴は、双方向性と同時性にある。書き込みができる掲示板、あるいは、SNSのようなあつらえになっており、社内向け報連相(報告・連絡・相談)の受け皿と、SFA(Sales Force Automation , 営業支援システム)の機能を兼ね備えている。しくみとしては、社内のサーバーにデータベースを設け、インターネットを通じてブラウザ環境で使用している。

SODAでは、記入した内容が、入力次第、全社員に公開されるので、情報の双方向性、というよりも、全方向性が担保されている。そして、記入した瞬間に、全社に共有されるので、報告の伝言ゲームによるタイムロスがなく、同時性も確保される。一次情報がそのまま上に上がるので、誰かの考えでバイアスがかかったり、上長によって不都合な情報が隠されたりすることも、当然、ない。社員にとって発言した声は、いかなるフィルターにも邪魔されず、全方向に、そして、直接的に、経営トップまで伝わるしくみが備えられている。この安心感は、計り知れないものがあると考えている」

私が、これまで、中小企業の事業改善のお手伝いをしてきた経験から感じることは、中小企業経営者の方の多くは、日報などによって、部下から、適宜、報告が欲しいと考えいるようです。その一方で、日報などを書いてもらおうとしても、なかなか定着しないという悩みも持っているようです。ところが、定着しない要因は、部下にあるというよりも、報告を受ける管理者層の側にあると、私は分析しています。具体的には、部下からの報告に対して、管理者層のレスポンスがあまり多くないと、部下たちは日報を書く意義を感じなくなり、なかなか定着しないと、私は考えています。

これは、客観的な裏付けはないのですが、私の経験から感じることは、部下から上司に伝わってくる情報の量は、上司が部下に伝える情報の量以上になることはありません。そこで、上司が部下からたくさんの量を情報を欲しいと思ったら、上司は自分が欲し量以上の情報を部下に伝える必要があります。ところが、「上司が部下から報告を受けることは当たり前で、報告を受ける側が多くの労力をかける必要性はあまり感じられない」と考える方も多いと思います。

しかし、管理者層には、部下を教育したり、組織内のコミュニケーションを活発にさせたりするという役割があります。ですから、上司が部下に報告をすることは、単なる「労力」と考えず、会社内のコミュニケーションを活発にしたり、上司が部下にお手本を見せて教育したりする活動と考えることが妥当だと思います。部下から見れば、上司自身がやっていること以上のことを上司から求められても、それを積極的に取り組もうという気持ちにはなれないのは仕方がないと、私は考えています。

2024/2/2 No.2606